2024年9月18日(水)

BBC News

2024年9月18日

マイク・ウェンドリング、BBCニュース

これは約900ページに及ぶ「ウィッシュリスト」だ。アメリカで次に共和党から大統領が当選した際に、どうやって大統領権限を拡大し、超保守的な社会観を強行するかという提案だ。

「皆さんが今晩これから耳にするのは、『プロジェクト2025』という詳細で危険な計画の内容です。前大統領は自分が再選された場合、この計画の内容を実行するつもりでいます」。

10日夜に米ABCニュース主催で行われた大統領候補のテレビ討論会で、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領は開始から間もなく、こう言った。

共和党のドナルド・トランプ候補は繰り返しこの文書を強く否定しており、討論会でも「自分はプロジェクト2025と何の関係もない」と述べた。

しかし、トランプ政権から数十人もの元関係者が、保守派シンクタンクによるこの文書に参加している。このため民主党は、この文書をトランプ候補に対する攻撃材料にしているのだ。

保守派シンクタンク「ヘリテージ財団」が策定したこの「プロジェクト2025」文書に含まれる、特に極端な内容について、アメリカでは強烈な反発が起きている。

民主党からの批判や、トランプ陣営からの怒りを受けて、文書策定の責任者は辞任している。「ヘリテージ財団」の関係者が前大統領への影響力を大げさに吹聴しすぎだと、トランプ陣営は反発している。

トランプ候補自身も自分は「プロジェクト2025」と何の関係もないと繰り返しているのだが、それでも依然として、この文書は今年の大統領選における重要争点の一つであり続けている。

文書の内容について、一部を紹介する。

誰が「プロジェクト2025」を書いたのか

ヘリテージ財団はワシントンで有数の右派系シンクタンク。1981年にロナルド・レーガン政権が発足する直前に、きたる共和党政権のため政策計画を提示した。

同財団はその後も大統領選のたびに、同様の政策提言をまとめてきた。2016年にトランプ候補が初めて大統領選に勝った時も同様だ。

これは特に珍しいことではない。アメリカではありとあらゆる政治的姿勢のシンクタンクが、望む政策を未来の政府に提言するのは普通のことだ。

その中でもヘリテージ財団は、共和党政権に影響力をもつことに成功してきた。トランプ政権発足から1年後、自分たちの提案の3分の2近くをホワイトハウスが採用したと、同財団は自慢していた。

「プロジェクト2025」は2023年4月に発表されたものだが、今年の大統領選が本格化するのに合わせて、民主党側はこの文書を厳しく攻撃し始めた。

トランプ候補は7月初めから、「プロジェクト2025」との間に距離を置くようになった。

「プロジェクト2025について自分は何も知らない」、「誰がかかわっているのか、まったく知らない」と、自分のソーシャルメディア・プラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」に書いた。

「内容の一部に自分は反対するし、内容の一部はまったくばかげていてみっともない」とも書いた。

ハリス候補との討論会においては、もう少し表現をやわらげ、文書の中の考えには「良いものも悪いものもある」という言い方をした。

そのうえで、「でも誤解しないように。自分はまったく関わっていない」と、トランプ候補は強調した。

「プロジェクト2025」をまとめたチームには、トランプ政権で大統領顧問を務めた人がずらりと顔を並べていた。政府の人事管理局トップだったポール・ダンス氏も、そのひとりだ。

ダンス氏は今年7月にプロジェクトから離れ、代わりにヘリテージ財団のケヴィン・ロバーツ会長がプロジェクトの総責任者になった。ダンス氏は「圧勝の実現に集中する」として、大統領選の間は財団を離れるのだと述べていた。

トランプ政権関係者だったラッセル・ヴォート氏は、「プロジェクト2025」の中核となる重要な章を書いた。同氏は、共和党全国委員会の2024年綱領の政策担当責任者でもある。

ヘリテージ財団によると、文書には100件以上の保守派組織が参加した。共和党がホワイトハウスを奪還すれば、ワシントンで特に強大な影響力をもつことになる組織も、そこに複数含まれているという。

文書そのものが提言する四つの政策の柱は、(1) アメリカの生活の中核として、家族の重要性を復権させる、(2) 行政国家を解体する、(3) 国家主権と国境を防衛する、(4) 神によって授けられた個人が自由に生きる権利を確保する――というもの。

政府

「プロジェクト2025」は、連邦政府の行政機関はすべて、大統領の直接統制下におくべきと提言する。これには司法省など、大統領から独立した権限を持つ省庁も含まれる。これは、大統領権限を広く解釈する「unitary executive theory」(単一執行府理論、行政権一元化論などと訳される)と呼ばれる、批判の多い政治理論をもとにしている。

この提言が実現されれば、政策決定の手続きが簡素化され、複数の政策分野において大統領が直接、政策を実行できるようになる。

「プロジェクト2025」はさらに、数万人の連邦政府職員の雇用保障を解除するよう提言。これが実現すれば、キャリア国家公務員の代わりを政党や政治家が任命するスタッフが担うようになる。

「プロジェクト2025」は連邦捜査局(FBI)を、「肥大化して傲慢で、日に日に無法化が進む組織」と非難。FBIをはじめとする複数の政府機関の大幅な改編を呼びかけるほか、教育省の全面廃止を提言している。

共和党の政策綱領は、こうした提言のすべてではないものの、多くを取り込んでいる。

そのうちの一つが、「極秘対象になっている政府記録を公開し、悪人を追い出し、汚職職員をくびにする」という提案だ。規制を次々と廃止し、政府支出を激減させ、教育省を名指ししてその廃止を求めている。

ただし、「プロジェクト2025」が提言するような大々的な連邦省庁の機構改革は、共和党は言明していない。

中絶と家族

「プロジェクト2025」は妊娠の人工中絶について約200回、言及している。そしてその内容が特に激しい論争を呼んでいる。

この文書は、全国的な中絶禁止を文字通り求めているわけではないし、そのような禁止法案に自分は署名しないとトランプ候補は述べた。

それでも、経口妊娠中絶薬「ミフェプリストン」の販売禁止を提言するほか、この薬の郵送を禁止するため、ほとんど実際には適用されていない現行法を使うよう呼びかけている。

ハリス候補は大統領選討論会でこう警告した。「これは理解しておいてください。彼の『プロジェクト2025』のもと、あなたの妊娠や流産を監視する監視官が全国に配置されることになります」と。

これは、中絶に関するデータ収集を強化すべきという「プロジェクト2025」の提案を踏まえた発言と思われる。

文書ではもっと一般的な話として、連邦政府の保健福祉省が「(キリスト教の)聖書を根拠にした、社会科学によって強化された、結婚と家族の定義を維持」すべきだとしている。

共和党の政策綱領には「中絶」への言及は1カ所しかないため、少なくともこの点については「プロジェクト2025」と共和党綱領の間にはかなりの距離がある。共和党綱領は、中絶に関する法は各州が個々に決めるべきで、「妊娠後期の中絶」(これが何を意味するかは定義していない)は禁止すべきとしている。

共和党綱領では、国民が出産前ケアや避妊、体外受精(IVF)を利用できる状態は守るべきだとしている。さらに、共和党綱領は「ミフェプリストン」の流通禁止に言及していない。

移民

アメリカとメキシコの間に壁を設置するため、予算を増やすというのは、2016年大統領選でトランプ陣営が掲げた目玉公約のひとつだった。これも「プロジェクト2025」に含まれている。

「プロジェクト2025」はさらに、連邦政府の国土安全保障省をいったん解体し、他の移民規制担当省庁と組み合わせることで、今までよりはるかに大規模で強力な国境取り締まりの組織を作るべきだとしている。

このほか、犯罪被害者や人身売買被害者のための特別ビザ(査証)を廃止し、移民申請費を増額するほか、高額の特別料金を払う移民申請者の審査手続きを迅速化することも提言している。

こうした細かい内容がすべて共和党綱領に含まれているわけではないものの、総論としては似ている。共和党は、「アメリカ史上最大規模の強制送還事業」実施を約束している。

気候対策と経済

「プロジェクト2025」は、再生可能エネルギーの研究・投資に対する連邦予算を大幅に削減することを提案し、次の大統領は「石油と天然ガスに対する戦争をやめる」よう呼びかけている。

さらに、脱炭素目標の代わりに、エネルギー増産とエネルギー安全保障の強化を推進するよう求めている。

関税については、「プロジェクト2025」は二つの異なる考え方を提示しており、次の大統領が自由貿易を推進するべきなのか、輸入品への関税を引き上げるべきなのか、意見が割れている。

それでも、経済政策を提言する担当者たちは、第2次トランプ政権が法人税と所得税を削減し、連邦準備制度を廃止し、通貨の金本位制への復帰さえ提言している。

この分野について共和党綱領は「プロジェクト2025」ほど極端な公約はしていない。代わりに、インフレ率を引き下げ、エネルギー費引き下げのため石油掘削を推進すると約束しているものの、具体的な政策提案は乏しい。

トランプ候補自身は、輸入品への関税引き下げを支持している。

テクノロジーと教育

「プロジェクト2025」は、ポルノ禁止を提言しており、ポルノの閲覧・入手を可能にするIT企業や通信企業は業務停止にすべきだとしている。

「プロジェクト2025」はさらに、公立校の選択制を拡大し、学校の指導内容を保護者が決められるようにすべきだと主張。リベラル派による、いわゆる「ウォーク(woke、社会問題への認識が高いこと)なプロパガンダ」を攻撃している。

「プロジェクト2025」は、「性的指向」「ジェンダー平等」「人工妊娠中絶」「生殖権」といった多数の用語を、すべての連邦法と規制から削除することも提言している。

「プロジェクト2025」は、いわゆる「ウォーク」イデオロギーを幅広く取り締まる一環として、多様性や公平や包摂(ほうせつ)性を重視するあらゆる事業を学校や政府部局において廃止することも求めている。

この政策分野での提言は、共和党綱領にも広く取り入れられている。綱領は、連邦政府の教育省を廃止するほか、学校選択制を強化し、教育内容を保護者が決める権利を拡大すると公約している。さらに、「私たちの子供たちの不適切な政治的教化」を批判している。

「プロジェクト2025」の未来は

「プロジェクト2025」が激しい論争の対象になる前は、提言の策定と推進に2200万ドルの予算を確保していた。

「プロジェクト2025」には、2025年1月の大統領就任から直ちに政策を実行に移すための戦略も詳述されている。その中には、政府ポストに人材を確保するため忠実な保守派のデータベース作成、新規採用した人材の訓練なども、項目として含まれている。

「プロジェクト2025」の中核を占める様々な提言が、想定される「第2次トランプ政権」の政策の形を決めるだろうとみられる一方で、トランプ陣営が「プロジェクト2025」から距離を置こうとしている中、「プロジェクト2025」そのものの展望は不透明だ。

他方、たとえ提言が実施されたとしても、反対勢力がその合法性について直ちに訴訟を起こすことも予想される。

(英語記事 Project 2025: The right-wing wish list for another Trump presidency

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cz6wxqgg37xo


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