2024年10月6日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月18日

 8月26日付けのフィナンシャル・タイムズ紙は、ウクライナと米国とがロシアの核威嚇に対するリスク評価と戦争目的において相違していることを指摘しつつ、ロシアの核威嚇について論じるラックマン(同紙チーフ外交コメンテーター)の論説‘Ukraine has crossed Moscow’s and Washington’s red lines’を掲載している。概要は次の通り。

(Oleg Elkov/gettyimages)

 クルスク攻撃によって、ウクライナはロシアのレッドラインのみならず、米国のレッドラインを踏み越えた。ロシアによるウクライナに対する全面侵攻が起こって以降、米国はウクライナが自国の領域を防衛し、主権国家として生存することを目標とするとの立場をとってきており、ロシア領内に攻め込むことは危険なことと見なしてきた。

 慎重な米国とリスクを恐れないウクライナとの相違は、ロシアのプーチン大統領の出方をどう見るかという分析での違いのみならず、戦争目的についての微妙な差異をも反映している。ロシア・ウクライナ戦争が起こった際、バイデン大統領は、政権としての二つの目的を定めた。

 一つはウクライナを支援すること、もう一つは第三次世界大戦の回避だ。もしも、この二つの目的の間で選択を迫られたら、米国は明らかに後者を選ぶことになる。 一方、ウクライナは自らの生存のために戦っている。

 このようにリスクへの許容度が米国とウクライナでは異なっている。米国はどのような兵器をウクライナに供与するか、供与された兵器をロシア領内に向けて使用することを認めるかで慎重な姿勢をとってきた。

 欧州の支援国においても、エストニア、ポーランドといったロシアと国境を接する前線の国とドイツとの間でも同様の温度差があった。ウクライナは支援国の慎重姿勢にかねてより不満を強めていた。

 ウクライナがクルスク攻撃を成功させたとしても、米国の慎重姿勢を解消させることにはならないだろう。米国はロシアとの直接の交戦を避けようとしており、核使用の威嚇を真剣に捉えている。

 ロシアは核兵器の使用の威嚇を行い、軍事演習において核兵器の使用を繰り返し訓練してきている。2022年には、ロシア軍で核の使用について会話が交わされていることを米国の情報機関は探知した。米側はロシアの公開の場での威嚇と内輪の場での会話を真剣に捉え、サリヴァン安全保障補佐官からロシア側に対して核を使用した場合に「破滅的な結果」をもたらすことを警告した。


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