2024年11月23日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年9月18日

 それ以外の論点であれば、抑止以前の問題として、そもそも核使用がロシアにとって有効なオプションではなかったということになる。クルスク攻撃については後者の方であろう。

 次に、ロシアの現行の核ドクトリンである20年6月公表の「核抑止分野における国家政策の指針」においては、ロシアが核兵器の使用に踏み切る条件として、①ロシアやその同盟国の領域を攻撃する弾道ミサイルの発射の情報を得た時、②ロシアやその同盟国の領域に対して敵が核兵器など大量破壊兵器を使用した時、③核戦力の報復活動に関わるロシアの政府施設・軍事施設に対して敵が干渉を行った時、④通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家が存立の危機に瀕した時、を列挙している。

 上記の四項目のうち、現在のウクライナとの戦争で考慮すべきは、「④通常兵器を用いたロシアへの侵略によって国家が存立の危機に瀕した時」である。これとの関係で、プーチンがウクライナとの戦争において頻発してきた核威嚇を考えてみれば、「クリミア」「供与兵器のロシア領内での使用」「NATO加盟国部隊のウクライナへの配置」のいずれも、それが「国家が存立の危機に瀕した時」となるかは大いに疑問である(もちろん、それを定義するのはあくまでもロシア側であるが)。クルスク攻撃についても同様だということで、これもロシアの核使用に至らなかった理由の一つであろう。

日本が念頭に置くべきこと

 最後に、ウクライナと米国の立場の相違は重要な論点である。自国が危殆に瀕している国と、海を隔てた国。核を持たない国と、アルマゲドンに至るかどうかの決断に関わる国。立場の相違があれば、戦う目的にも、リスクの評価にも相違が出てくるのは当然である。

 東アジアに位置する日本が念頭に置くべきは、東アジアで紛争が生起した際にも、同様の構図が生まれうるということである。米国の対応には、核大国との直接戦闘を避ける、核大国との核の対決を避けるという視点が入ってくるであろうことを計算に入れておかなければならない。

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