米ニューヨークで15日、運賃を払わずに地下鉄に乗ろうとしたナイフを持った男性を取り押さえようと、警官が混み合う駅で発砲した。流れ弾が近くにいた人の頭に当たり、重体となった。ニューヨーク市警は、警官の行動を擁護している。
発砲は15日午後、ブルックリンのサッター・アヴェニュー駅で起こった。頭に銃弾が当たった男性のほか、無賃乗車しようとしたとされる容疑者ら3人がけがをした。
警察の発表によると、警官2人は無賃乗車の容疑者に対峙(たいじ)し、容疑者がナイフで警官を脅した後に発砲した。
ニューヨーク当局は、相次ぐ暴力事件や強盗事件、殺人事件を受けて、地下鉄やバスでの犯罪を減らすことを最優先課題としている。無賃乗車の取り締まりもその一環だという。
しかし、軽微な犯罪容疑者の追跡が、混雑した空間での殺傷力の行使にまでエスカレートしたことに、疑問の声が上がっている。
ニューヨーク市警のトム・ドンロン総監代理は、全面的な捜査を命じた一方で、「強調したいのは、この出来事は(中略)武装した犯罪者がいたことによって起こったということだ」と述べた。
発砲に関与した警官らの名前は公表されていない。
頭に銃弾を受けて重体となった男性については、地元メディアがグレゴリー・デルペシェ氏だと特定している。ニューヨーク・デイリー・ニュースは、同氏が20年以上勤めている地元の病院に出勤途中だったと報じた。デルペシェ氏の家族は同紙に対し、頭部に負った傷によって脳に障害が残る可能性があると語った。
一方で、警官の責任について司法支援を行っているジェンバイン・ウォン氏はニューヨーク・タイムズに、警察は「閉ざされた空間で(中略)不釣り合いな力を使う」ことを選択し、人命を危険にさらしたと語った。
ニューヨーク市警のジェフリー・マドレー本部長は記者会見で、警官2人は、男性が運賃を払わずに改札を通過するのを目撃したと説明。この男性は後にデレル・ミクルズ容疑者と判明している。
マドレー氏によると、警官のボディーカメラの映像には、容疑者が「ついてきたら殺す」と警官を脅し、その後にナイフを持って警官に詰め寄る様子が映っていたという。
映像にはまた、対立がエスカレートする中、電車が駅に入ってくる様子が映っている。列車に乗り込もうとした容疑者に対し、警官がテイザー銃を発射したが効果はなく、容疑者はホームに飛び戻った。
マドレー氏は、「ある時点で、男性はナイフを持って警官の一人に向かってきた」と説明。「警官は後ろに下がり、男性がナイフを出したため、両警官はこの時点で発砲した」とした。
この事件では、付近にいた2人、警官1人、そして容疑者が撃たれたという。
マドレー氏によると、警官の1人は脇の下を撃たれたことに気づいたが、容疑者の「救命措置」を続けたという。両警官は後から、通行人2人も銃撃を受けていることに気づいたという。その後、新たに警官2人が到着し、負傷者を助けた。
当局によると、容疑者は過去に20回の逮捕歴があり、精神疾患の既往歴もかなりあったという。
ニューヨーク都市交通局(MTA)の最高責任者であるジャンノ・リーバー氏は、「この出来事の発端は、誰かが武器を持って交通システムを利用しようとしたからだ。その人物には(中略)前科があり、暴力歴があり、銃関連の訴追歴まである」と述べた。
警察は15日の時点で、現場でナイフを回収したと発表し、写真をソーシャルメディアに掲載した。しかし翌16日には、このナイフが身元不明の人物によって現場から持ち去られたと投稿した。
ニュースサイト「ゴッサミスト」は、警察は現場から別のナイフを回収し、それが容疑者が持っていたものだと考えたのだと報じた。
ニューヨーク市警の報道官は、警察官が拾ったナイフは、他の地下鉄利用者が置き忘れたものだろうと、ゴッサミストの取材で語った。
市当局は犯罪の急増を受け、交通システムにおける警察の存在感を高めようとしている。現在、地下鉄の全駅に監視カメラが設置されているほか、乗客が武器を持っていないかスキャンする試験的な計画も実施されている。
MTAは昨年、警察の協力で無賃乗車の取り締まり強化を発表した。当局は、積極的な取り締まりは犯罪者の逮捕とニューヨークの列車からの武器の排除に役立つとしている。
だが、問題は膨らみ続けており、ニューヨーク市警の統計によると、今年第2四半期の逮捕者は2227人、召喚状は3万枚を超え、5年前の同時期の約2倍となっている。
(英語記事 Bystander shot in head as NY police tackle armed subway fare-evader