2024年10月6日(日)

経済の常識 VS 政策の非常識

2024年10月2日

労働解雇規制の緩和で生産性は上がるのか

 ここで、解雇規制緩和とも関連する労働市場の流動化について、考えてみたい。労働市場の流動化が生産性を高めるのは、低い給料の人が高い給料を払ってくれる会社に行く時だけだ。高い給料を払えるのは高い利益を上げている会社だろうから、こういう会社に人が集まれば、給与も会社の利益も上がる。したがって日本全体の生産性も上がる。

 生産性の低い社員に高い給料を払って困っている会社があるのは事実で、こういう社員を解雇すればこれまで困っている会社の生産性が上がるのは確かだろうが、解雇された社員は失業するか、現在より低い賃金で働くしかないので、日本全体の生産性は上がらない。すると大事なのは、くすぶっている人に、より高い賃金の仕事があるような社会、景気が良く、成長が続く社会を作るのが先決ということになる。

 青山学院大学の佐藤綾野教授は、解雇規制が緩いほど労働の生産性が高くなるが、失業率が低いほど、また、物価上昇率が高いほど(経済協力開発機構〈OECD〉諸国のデータを用いた分析なのでインフレが高すぎる国はない)、つまりデフレから脱却している国ほど生産性が高いことを示している(佐藤綾野「第5章 高圧経済が労働生産性に与える影響」原田泰・飯田泰之編著『高圧経済とは何か』金融財政事情研究会、2023年)。マクロ経済の状況が活発であることが大事ということだ。

財政再建派はどれだけ真剣か

 労働市場の流動化の他の経済政策として重要なテーマは、財政再建、金融政策、成長投資、エネルギー政策などだろう。

 石破氏、河野氏、林芳正官房長官、上川陽子外相が財政再建派、それ以外は非再建派ということになっているようだったが、総裁になった石破氏は、さっそく「当面の物価高に対応する」ための補正予算をぶち上げた。これはまったく財政再建とは矛盾すると思うのだが、誰も気にしていないようだ。

 岸田文雄前首相も、財政再建派と言われていたが、何度も補正予算を組んだし、2024年には一人4万円、総額4兆円の定額減税、ガソリン補助金に3兆円程度を支出している。防衛費増税1兆円、子育て支援のための保険料値上げ1兆円などどうでも良い話に見えてくる。茂木敏充幹事長もそう思ったので、「増税ゼロの政策推進」を唱えたのだろう。

 筆者の考えでは、財政再建派とは、財政再建を真剣に考えている訳ではなくて、金融政策が財政再建に役立つことが理解できていない人たちだ。タナシオス・オルファニデス米マサチューセッツ工科大学(MIT)教授(前キプロス中央銀行総裁、欧州中央銀行〈ECB〉政策メンバー)が18年5月30日に日銀で講演した際のパーティで、「デフレで財政赤字も拡大。これは不必要な赤字だ。なぜ財務省はデフレ阻止できなかったのか」と質問された。当時、日銀審議委員だった筆者は、「財務省は、名目国内総生産(GDP)の増大よる税収増ではダメで、増税によって赤字を減らさないといけないというイデオロギーを持っている」と説明した。当然ながら、この奇妙なイデオロギーに理解は得られなかった。


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