2024年11月21日(木)

「永田町政治」を考える

2024年9月29日

 〝5度目〟の正直で、石破茂氏が自民党新総裁に選出された。候補者9人の乱戦、決戦投票で高市早苗氏を逆転しての劇的な勝利だった。

新首相になった石破茂氏は国民にどのような国づくりを見せるのか(代表撮影/ロイター/アフロ)

 新生・自民党の姿を示し、日本の将来を託し得る政治家が登場するかが試されていた今回の総裁選。期間中に交わされた論戦を見る限り、やや物足りなさが感じられた。

 一流国から転落の瀬戸際、内外とも困難な中に置かれた日本のかじ取りを担う石破新首相・総裁には、各論から踏み出し、国民を鼓舞、団結させる夢多きプランを示すことが求められよう。

示唆与える「昭和の所得倍増論」 

 新総裁は党役員人事が整った後、10月1日に首相指名を受けて組閣、衆参両院での所信表明演説などを通じて、国民に政見を明らかにする。

 総裁選期間中、石破氏を含め各候補は、経済を中心としたさまざまな政策課題で所信を明らかにした。「経済成長」(高市経済安保担当相)、「実感できる経済再生」(林芳正官房長官)、「世界をリードする国へ」(小林鷹之元経済安保担当相)などだ。

 いずれも重要な提言ではあるが、新鮮味に欠ける印象は拭えなかった。「歴代政権の焼き直し、延長」(朝日新聞、9月23日づけ朝刊)、「聞こえのいいスローガンを競い合う人気取り」(日本経済新聞23日付朝刊)などメディアの酷評が目立った。

 ただ、加藤勝信氏が掲げた「所得倍増」などは、戦後復興の黎明期、1960年に登場した池田勇人内閣のコピーではあったものの、かつて国民に夢を与え鼓舞した壮大な構想を想起させる効果をもたらした。新内閣への示唆にもなりうるかもしれない。

 月給が2倍になり生活もリッチになる――。池田勇人内閣が打ち出した「所得倍増・高度成長」路線は、「日米安保条約改定反対闘争で荒廃した人心を癒し、明るい方向に切り替える」(池田の秘書官、伊藤昌哉氏『池田勇人 その生と死』)のが狙いだったという。その構想は人々の心を見事にとらえた。

 国民の多くはやがてやってくるという豊かな時代に思いをはせ、持ち前の勤勉さを発揮、経済大国への礎を築いた。

 もちろん、当時とでは国内の状況も国際環境も大きく異なる。いまのわが国を見ると、新総裁が当選直後の記者会見などで言及したように、内政では、人口減少による少子高齢化、医療・介護、防災、外に目を向けると、中国の脅威増大、北朝鮮の核・ミサイルなど重大かつ緊急を要する問題が山積している。戦時でも戦後の勃興期でももちろんないが〝静かなる有事〟の時代というべきだろう。

 「これをやります」「あれもします」という選挙公約ではなく、国民の不安をやわらげ、将来への希望を育む構想、政策こそ新首相・総裁にいまこそ求められている。


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