過去の例も見ても、新首相は就任から半年~1年程度で解散・総選挙に踏み切るケースが少なくなかった。新首相への〝ご祝儀人気〟が続く間の選挙なら自らにも有利になる、という議員心理だろうが、早くも街頭演説など選挙運動を始めた議員も少なくなかった。
「宰相は廉潔で気宇壮大たれ」
ともあれ新しい首相・総裁は決まった。新首相がどんな構想を示すかについて、示唆に富んだ文章がある。時代錯誤という批判を承知であえて紹介するのは、時を超えて今日にも通じると思われるからだ。
戦争末期の1943年元旦の朝日新聞に掲載された「戦時宰相論」だ。
民政党出身の代議士、中野正剛の筆になる論文は、非常時における最高指導者のありようを論じている。自らへの批判と受け取った当時の首相、東条英機が激怒、中野に弾圧を加え、自刃に追い込んだ因縁の記事だ。
中野は、フランスの政治家、クレマンソー、日露戦争時の首相、桂太郎らに言及して、「宰相は国民の情熱と同化し、これを鼓舞することが必要」と論じ、そのうえで、「難局日本の名宰相は強からんためには、誠忠に謹慎に廉潔に、而(しこう)して気宇壮大(きうそうだい)でなければならぬ」と結んだ。
「誠忠」「気宇壮大」――。現在もまた非常時だ。自民党を国民に対して誠実な党に再生させ、〝大風呂敷〟といわれるくらい国民の心をつかみ鼓舞しなければならない。
石破次期首相に期待したいのはそれだ。