中国の圧力を受けている、周辺の7か国は、少なくとも、外交的に共同して中国に対処するようになってきている。インド、日本、ベトナムの非公式な連携のように、中身を伴うものもある。日韓の防空識別圏(ADIZ)と重なり合う、中国のADIZ設定は、日韓関係を改善させさえするかもしれない。
中国の指導者は、韓国からインドに至る連合の出現により挑戦を受けている、と不満を言い、全ての元凶は米国であると批判しているが、そうさせているのは、中国政府自身の各国に対する要求が原因である。ADIZ問題の後の、最も新しい要求は、日本は防衛費を増やすべきではない、すなわち、日々の中国の脅威に対応することを抑制せよ、というものである。
共産党の指導者は、巨大でダイナミックな経済をマネージすることに長けていたし、抑圧も、対少数民族を除いては、目に見える残忍さを最小限に抑えると言う点で巧妙であった。こうした理由から、多くの外部の者が、外交政策についても熟達しているであろう、と仮定してきた。
残念ながら、これまでのところ、実際に我々が目撃しているのは、役に立たないナショナリズムと軍国主義の台頭である。それは、1914年以前のドイツという不吉な先例を想起させる。ドイツ帝国は、世界で最も優秀な大学を持ち、最も進んだ産業と最も強力な銀行を持っていたが、「平和的台頭」を続けるという戦略的知恵だけは欠いていた、と論じています。
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確かに、ルトワックが指摘する通り、中国の軍、治安当局の行動が、冷戦時代のソ連に比べても、より乱暴、挑発的になって来ているのは事実です。第一次大戦前には、ドイツが、無神経にモロッコにまで介入して、英仏同盟関係を固めさせた例もあり、その意味で当時のドイツと比べることは出来るかも知れません。
ルトワックは、そうなった転機は2008年としています。2008年と言えば、リーマン・ショックでアメリカはじめ世界経済が沈滞している中で、ひとり中国だけが、高度成長を維持できた時期であり、また、ブッシュ政権が始めたイラク・アフガン戦争が行き詰り、共和党が政権を失ってオバマが大統領に選出され、米国の力の衰退、中国の勃興が印象付けられた年でした。それが中国が尊大になった理由であるとのルトワックの指摘には、一面の真理はあるかもしれません。