イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘が続くパレスチナのガザ地区の人道状況をめぐり、アメリカがイスラエルに書簡を送り、同国が30日以内に改善させなければ、アメリカは対イスラエル軍事支援の一部を打ち切る可能性があると伝えていたことが15日、明らかになった。
13日付のこの書簡は、アメリカが同盟国のイスラエルに出した警告文としては最も強力なもの。イスラエルがガザ北部で新たな攻撃を開始し、多数の民間人が死傷していると報じられている中で出された。
書簡にはアメリカがガザの人道状況の悪化に深い懸念を抱いていると書かれている。また、イスラエルが先月ガザ北部と南部の間で、人道的な移動の90%近くを拒否または妨害したとしている。
イスラエルは書簡について検討中だとされる。同国はガザ北部での攻撃はハマス工作員を標的にしたもので、人道支援物資の流入を阻止してはいないとしている。
ガザ境界の検問所を運営するイスラエルの占領地政府活動調整官組織(COGAT)は14日、国連の世界食糧計画(WFP)からの援助物資を積んだトラック30台がエレズ検問所からガザ北部へ入ったと発表した。
国連によると、ガザ北部に食料援助が届けられず、40万人のパレスチナ人の生存に不可欠な物資が底を尽きつつあった。こうした状況は2週間続いたが、エレズ検問所経由の物資搬入でそれを脱した。
アメリカはイスラエルにとって最大の武器供給源。イスラエル軍はこの1年、ガザでのハマスとの戦闘をめぐり、アメリカから供給された航空機や誘導爆弾、ミサイル、砲弾に大きく依存してきた。
書簡の内容
アメリカがイスラエル政府に宛てた書簡の内容は、米ニュースサイト「アクシオス」が最初に報じた。その後、米国務省も書簡の存在を認めた。書簡にはアントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が署名している。
書簡には、「ガザにおける人道状況の悪化に対して米政府が深い懸念を抱いていることを強調し、この軌道を方向転換させるために今月中にイスラエル政府が緊急かつ持続可能な行動を取ることを求めるため、この書簡を記す」とある。
また、イスラエルの避難命令を受け、イスラエル軍が人道地区に指定しているガザ南部アル・マワシ地区には170万人のパレスチナ人が密集していると指摘。この狭い地区は極度の過密状態にあり、致死的な感染症が広まる危険性が高まっているとしている。さらに、人道支援団体はこうした避難民が生き延びるためのニーズに応えられていないと報告していると書いてある。
「我々はイスラエル政府による最近の行動を特に懸念している。商業的な搬入の停止、9月にガザ北部と南部の間で人道的な移動の90%近くを拒否または妨害、民生と軍事の両方に活用できるデュアルユースに対する過重な制限の継続、人道スタッフや輸送品に対する新たな審査・重い責任・税関要件の設定は、不法行為や略奪の増加とともに、ガザの状況を加速度的に悪化させ続けている」
書簡は、イスラエルはガザへの援助物資の供給を促進するための一連の具体的な措置を「今すぐ、30日以内に開始しなければならない」、そうでなければ「アメリカの政策に影響を与えることになりかねない」としている。
書簡には、アメリカの人道援助物資の提供を妨げる国に軍事支援を禁止する、アメリカの法律が引用されている。
アメリカ側は、イスラエルは冬の到来までに「ガザ全域であらゆるかたちの人道支援を急増」させなければならないとしている。これには1日あたり最低350台のトラックが四つの主要検問所と五つ目の新たな検問所を通過し、アル・マワシ地区にいる人々が内陸に移動できるようにすることが含まれる。
ガザ北部から南部への「民間人の強制避難がイスラエル政府の政策に含まれない」ことを再確認し、「ガザ北部の孤立」を終わらせることも求めている。
米国務省のマシュー・ミラー報道官は15日、米ワシントンでの記者会見で、当該書簡は「非公開の外交的コミュニケーションであり、公表するつもりはなかった」と語った。
「(ブリンケン)長官はオースティン長官とともに、ガザへの援助レベルを回復させるために再び変更を加える必要があるとイスラエル政府に明確にすることが適切だと考えた」
イスラエル側が人道援助へのアクセスを改善しなかった場合にどのような結果が起こりうるかについては、ミラー報道官は推測を避けた。
「米軍の援助を受ける側が恣意(しい)的にアメリカによる人道援助の提供を拒否あるいは妨げるようなことはない。このことは法律で定められており、我々は当然、法律に従う。しかし我々が望むのは、我々が示したような変更をイスラエルが行うことだ」
30日間という期限については、11月5日に控える米大統領選とは関係がないとし、「異なる問題に取り組むための時間を与えるのがふさわしい」やり方だと述べた。
イスラエルは以前から、ガザへ届けられる援助物資や人道支援の量を制限してはいないと主張しており、それらが供給されていないのは国連機関に問題があるからだとしている。また、ハマスが援助物資を盗んでいるとも非難している。ハマス側はこれを否定している。
5月にイスラエルがガザ南部ラファで地上攻撃を開始する前、ジョー・バイデン米大統領は2000ポンド爆弾と500ポンド爆弾の輸送を初めて停止し、イスラエルに全面攻撃を思いとどまらせようとした。
しかし、バイデン氏は直後に、米議会共和党やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相からの反発に直面した。
この停止措置は7月に部分的に解除され、その後は実施されていない。
ガザ市民、「想像を絶する恐怖」に直面
赤十字国際委員会(ICRC)は15日、10日前に始まったイスラエルの新たな攻撃で、ガザ北部の人々が「想像を絶する恐怖や愛する人の喪失、混乱、疲弊」に直面していると警告した。
イスラエル軍は再編されたハマス戦闘員を一掃するため、北部ジャバリアと同市内の難民キャンプに戦車と部隊を送り込んだとしている。同地域への派兵は3度目。
イスラエル軍はジャバリアや近隣のベイトラヒア、ベイトハヌーンの住民に、アル・マワシの「人道的地域」に避難するよう命じている。
国連によると約5万人がガザ市や北部の複数地域に避難している。しかし多くの人にとては、自宅を離れることそのものに危険がともなう。病気や障害があり、避難が難しい人たちもいる。
ハマス運営のガザ民間防衛隊は、15日にイスラエルの空爆や砲撃を受けたジャバリアと近隣地域で42人の遺体が収容されたと発表した。
死者には同じ家族の11人(ほぼ全員が女性と子供)が含まれる。夜間攻撃で自宅が破壊されたのだという。
イスラエル軍は15日、前日からジャバリアで「数十人のテロリスト」を殺害したと発表した。
イスラエルの人権団体は14日に、「イスラエル軍が『将軍たちの計画』を静かに実行に移しつつあることを示す憂慮すべき兆候」があると警告していた。
物議を醸しているこの計画は、ガザ北部のすべての民間人を強制的に移送し、そこに残っているハマス戦闘員を包囲し、降伏とイスラエル人人質の解放を迫るというもの。
イスラエル軍は「民間人を危険から遠ざけている」だけだとし、計画の実行を否定している。
昨年10月7日にハマスがイスラエル南部を奇襲し、約1200人を殺害、251人を人質に取ったことを受け、イスラエルはハマス壊滅作戦を開始した。
ハマス運営のガザ保健省は、ガザでこれまでに4万2340人以上が殺害されたとしている。
(英語記事 US gives Israel 30 days to boost Gaza aid or risk cut to military support)