2024年10月10日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年10月10日

 真田広之氏が製作し主演もしたTVドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』が、エミー賞をほぼ総なめする18部門での受賞を果たした。そもそもは配信数が記録的なセールスを達成しており、評価も高かったことから、この結果にサプライズはなかったが、そのことも含めて壮挙といえる。ちなみに評価ということでは、アメリカの主要な批評サイト「ロッテントマト」では、プロ批評家の100%が推薦、アマ批評家を含めても99%が推薦という例外的な高評価となっている。

エミー賞を受賞した「SHOGUN」は、日本文化を米国で忠実に表現している(『SHOGUN 将軍』公式サイトより)

 実際の作品についても、真田氏が長年こだわっていた「日本の文化に忠実な表現」ということが徹底されており、日本では難しい高度なCG技術の活用を含めて巨額な予算が投じられているだけあって十分に見応えがある。真田氏は映画『ラスト・サムライ』(エドワード・ズウィック監督、2003年)に出演した際に、アメリカ人のキャストやクルーとの間で、日本の文化をどう表現するか様々な葛藤を経験したことが知られている。今回の作品は、その意味で真田氏の積年の思いが結実したものと言えるだろう。

イメージアップした日本文化と日本語

 9月15日に行われたエミー賞の授賞式では、真田氏は受賞のスピーチを日本語で行った。異例なことだが、アメリカでは好感を持って受け止められている。そこもこれも、真田氏が「本物の日本文化」にこだわって、本作では日本語の台詞は日本語で貫き通し、視聴者もこれを支持していたことの表れであるし、熱心な視聴者を含めたアメリカ社会が、日本文化と日本語にポジティブなイメージを持っていることの証拠だと思う。

 日本語と言えば、本作に出演している俳優のアンナ・サワイ氏は大変な人気であり、数多くの著名なトーク番組に出演している。そこで自分が日英バイリンガルであることの意味や、時代劇に独特な日本語の難しさなどを丁寧に説明していた。

SHOGUNで重要な役を演じるアンナ・サワイ氏(『SHOGUN 将軍』公式特設サイトより)

 サワイ氏が自分のことを「私」ではなく「身共(みども)」と言うとか、「あなた」が「貴殿(きでん)」になるといった話題を説明するのに対して、司会者や会場からは驚くほど関心が寄せられていた。そんなことからも、本作の成功が日本という国、日本の文化、日本語の全体のさらなるイメージアップに貢献したことも間違いないであろう。

 この『SHOGUN』の成功については、手放しで喜んでばかりもいられない。作品にも、そしてプロデュースした真田氏にも全く罪はないが、少なくともこういった外資による大作の製作が続くようだと、時代劇作品の製作ノウハウも、また成功した際の経済効果も、何もかもが流出してしまう。結果的に、日本の文化財というべき時代劇の製作ノウハウが空洞化してしまうことになりかねない、というか既にそうなっている。


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