2024年10月10日(木)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年10月10日

 この点については、日本のエンタメ産業における「製作委員会方式」というリスクヘッジを目的とした製作方式を改めて、責任あるプロデューサーがダイナミックな資金調達のできる方式を構築するしかない。とにかく、今回の『SHOGUN』の成功に対しては、日本国内の広告代理店、TV局、映画会社、製作プロなどには奮起を求めたい。

〝ゆかりの地〟の観光魅力強化を

 それはともかく、『SHOGUN』の成功は既に起きてしまったことだ。この成功を受けて、日本社会では何をどうするべきか、エンタメ産業の空洞化という問題はさておき、今回は作品の成功をどうやって「次」につなげるのか、考えてみたい。

 1点目は、観光サービスの付加価値向上という問題だ。豊臣から徳川への政権交代の背景には、欧州におけるカトリックとプロテスタントの争いがあり、これを利用して徳川政権は独立の維持に成功した。本作はこのような壮大で知的なテーマを掲げて大成功している。ということは、本作のファンは、日本の近世史に対して無制限の好奇心と、知的情報への渇望を抱いていると言っていいだろう。

 ならば、ゆかりの観光地においては、もっともっと情報提供のレベルを上げるべきだ。大阪城にしても、秀吉ゆかりの京都の寺社にしても、しっかり英語での説明をつけた歴史の情報提供を行う必要がある。

大阪城も「SHOGUN」を意識した観光コンテンツのブラッシュアップが必要だ(Rufous52/gettyimages)

 江戸城については、維新後に皇居となっていることから徳川政権の居城としての史跡という意味での見学は難しいが、例えば半蔵門外とか、田安門外などに江戸城博物館などを建設して外国人の学習機会としつつ経済効果を狙うなどのアイディアも可能ではないか。

 日本の城に関しては、外国人観光客が殺到することから、地元民だけを割引対象としてその他は入場料を値上げするような動きもある。けれども、単に値段を上げるだけではなく、ワイヤレス配信による英語での観光ガイド、それも歴史に関わる高度な知的情報が得られるものを提供するなど、外国人向けに付加価値を上げて、それを価格に反映するような工夫もできるはずだ。

「日本食ブーム」を継続させよ

 課題の2番目は、食文化の質の確保という問題だ。『SHOGUN』のブームとは直接は関係ないが、アメリカでも欧州でもアジアでも、日本食ブームはとどまることを知らない勢いだ。そんな中で、例えば日本国内では「インバウンド価格」だとして、内容の伴わない形で価格を釣り上げる動きがある。

 アメリカの場合もブームに便乗して寿司やラーメンの店が猛烈な勢いで増殖している。けれども高い値段を取っている店の全てが質を伴っているわけではない。アメリカの飲食店の経営では、ブランド価値の拡大に投資する期間は味にも投資するが、客層の拡大に成功しブランド認知が定着した後は、原価を下げて利幅を取って初期投資を回収するという「短期利益中心の経営理論」が見られる。


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