米国の軍備管理問題の専門誌Arms Control Today は、9月号で米国大統領選挙に焦点を当てて新大統領にとっての核兵器に関わる諸課題を特集しているが、その一編として、米国は核実験を再開すべきではないと指摘するリン・ラステンによる論説‘Preventing a Resumption of Nuclear Testing’を掲載している。概要は次の通り。
米国は、これまで32年間、共和党政権においても、民主党政権においても、核兵器の爆発性実験についてのモラトリアムを遵守してきた。米国は他国に対し、核実験を止めるよう唱道し、1996年には包括的核実験禁止条約(CTBT)交渉を完了させた。
今日、核実験のモラトリアムは全世界的なものとなったが、それが安全保障面、環境面、人道面で多くの利益をもたらすことは争う余地がない。核不拡散条約(NPT)上の核兵器国である5カ国はいずれも96年以降、核実験を行っていない(ソ連/ロシアは90年、英国は91年、米国は92年、中国とフランスは96年にモラトリアムの措置をとった)。
45年から90年代半ばまでの間に世界中で約2000回の核実験が行われた。その内、500回は地上ないし海中で行われた。こうした核実験が一般市民や軍関係者に及ぼした環境面、健康面での被害は今日も続いている。
核実験を再開すれば、米国においても、全世界的にも、反対の声が上がるであろう。しかし、トランプ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官であった人物を含めて、米国が核実験を再開すべしと主張する者がいる。
幸いなことに代替案がある。備蓄している核弾頭の安全性、信頼性、実効性について爆発性核実験を行うことなく科学的に評価する「備蓄弾頭維持計画」であり、米国はこの計画に依拠して爆発性核実験は科学的および技術的に不要と判断してきた。
新型の核兵器を開発するためであれ、ロシア・中国との交渉上のテコとするためであれ、核実験を再開することは極めて近視眼的である。もしも米国が核実験を再開すれば、ロシア、中国、その他の国が後に続くことになろう。現在、核兵器を保有していない国にも、核保有を目指すべきとの拡散圧力が加わることになろう。