2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月10日

 言い換えれば、核兵器の安全性と実効性の確保のために必要であれば、核実験の再開もありうるとのスタンスであった。共和党系の関係者にも幅があり、核実験再開を主張する者からより慎重な者までいて、その妥協の産物がこのような表現になったと思われる。

 この論考でラステンが懸念を示しているのは、トランプが次期大統領になれば、米国の核実験再開が現実のものとなる可能性である。問題は、いくら米国が「安全性と信頼性のため」といっても、世の中はその額面通りに受け止めるわけではないということである。

 世界には、新型の核兵器の開発のために、核実験でその作動状況を検証・確認したいと考えている国がいくつもある。北朝鮮、ロシア、中国、インド、パキスタンといった国は、米国が核実験を再開してくれたら、「機会の窓が開いた」「助かった」と感じ、後に続くであろう。外形的には「安全性と信頼性のため」の核実験と、新型の核兵器の開発のための核実験とを区別することはできない。

実験再開は米国にとってマイナスの側面も

 これまでの核実験の数については、さまざまな統計数字があるが、大方の見るところ、1945年以来、全世界で2000回以上もの核実験が行われたが、回数が最も多いのが米国の1100回以上で、次いでソ連の700回以上である。核実験の重要目的はデータの取得であり、過去の核実験から最も多くのデータを取得してきているのは米国である。裏側から見れば、グローバルに核実験がなされない状況から最も大きな利益を得ているのは米国である。

 このように、核実験禁止を国際的な規範とすることは「強者による現状固定」という側面がある(もちろん「現状固定によって悪化を防ぐ」という意味もあるが)。これは、5カ国のみを核兵器国と認める核不拡散条約(NPT)と同じ構造である。

 共和党系も一枚岩ではないので、トランプ政権になれば核実験再開になると決まっているわけではないが、米国自身がそうした構造を自分で壊そうするのであれば、自らの利益を自ら害する行動と言わざるを得ない。

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