2024年10月10日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月10日

 そうした多角的な核実験の再開が起これば、最も多くを失うのは米国である。他の国は、新型の核兵器を開発し、実験することで利益を得ることができると考えるであろう。しかし、そこで話は終わらない。

 核兵器の再開、特に、NPT上の五つの核兵器国による核兵器の再開はグローバルな核不拡散体制を崩すリスクがある。95年にNPTを無期限延長するとの合意が形成された際、核実験禁止条約を締結するとのコミットメントが重要であった。核実験の再開は核兵器国のNPTへのコミットメントへの信頼性を著しく損ない、非核兵器国に募っている不満をさらに倍加させるものである。

 次期米国大統領は、爆発性核実験についてのモラトリアムを支持することの国家安全保障上の利益をよく認識し、すべての核保有国に対して核実験のモラトリアムを維持するように働きかけるべきである。さらに、次期大統領は、CTBTを批准し、同条約を発効させるという長期目標に向かって進んでいくべきである。その逆に、核実験を再開することは米国からも国際社会からも決して歓迎されないであろう。

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共和党内でもさまざまなスタンス

 米国では、核政策において民主党と共和党とで立場の相違がある論点がいくつかあるが、核実験禁止はその一つである。上記は、次期政権を念頭に置いて、米国は核実験を再開すべきではない旨、民主党系の核問題の専門家であるリン・ラステンが論じた論考である。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)は、民主党のクリントン政権が推進し、96年に国際的な合意にこぎ着けた。同政権は、同条約を署名したが、共和党の反対姿勢もあり、99年、上院の三分の二の賛成を得ることができず、批准に失敗した。これは、20年の国際連盟への加盟の批准失敗とは重さは異なるものの、米国の関係者にとって、その後も拭い去ることができないトラウマになっている。

 モニタリングの仕組みに限界があるので、隠れて核実験がなされる恐れがあることが共和党議員の主な反対理由であった。オバマ政権もCTBT批准を目指したものの、果たせなかった。

 民主党は米国自身として核実験禁止に法的にコミットし、国際的にも核実験禁止を法的な規範として確立していこうとする考えが主流であるが、共和党は米国が手を縛られることを嫌い、また、核実験禁止といっても他国が隠れて核実験を行う可能性を重く見る。

 2017年からのトランプ政権は、核実験の再開を政策オプションとして残していた。トランプ政権時に策定された18年版核態勢見直し(NPR)は、「米国は核兵器の安全性と実効性の確保のために必要でない限り、核実験を行わない」と述べていた。


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