2024年10月16日(水)

BBC News

2024年10月16日

ジョエル・ギント(シンガポール)、ジュナ・ムン(ソウル)、BBCニュース

韓国と北朝鮮はここ数カ月、一触即発状態にある。北朝鮮は今月、首都・平壌にドローン(無人機)を飛ばしたとして韓国を非難。緊張がさらに高まっている。

韓国のドローンは平壌上空で対北朝鮮プロパガンダのビラをまいたとされる。北朝鮮は韓国が「武力衝突、さらには戦争」につながりかねない挑発行為をしたとしている。

北朝鮮政府は11日、これらの疑惑をめぐり韓国を非難。その後、軍事境界線を警備する部隊に発砲の準備を整えるよう命じたと明らかにした。韓国側は、北朝鮮に対応する用意があるとし、自国民の安全が脅かされるようなことがあれば、それは「北朝鮮政権の終焉(しゅうえん)」の前兆となるだろうと警告した。

15日になると、今度は北朝鮮が韓国とつながる2本の道路の一部を爆破した。北朝鮮は先に韓国への道路と鉄道を遮断し、両国を「完全に分離」すると脅していたが、これを本当に実行したのだった。

北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が1月に韓国を「第1の敵国」に定めるべきだと述べて以来、南北の緊張はここ数年で最も高まっている。直近の突発的な出来事は、両者の一連の応酬における最新のものだ。

何が起きているのか

10月11日、北朝鮮外務省は韓国が2週間にわたり、夜間に平壌にドローンを飛ばしたと非難した。ドローンがまいたビラには「扇動的なうそやくだらないこと」が含まれていたとしている。

金総書記の実妹で影響力のある金与正(キム・ヨジョン)氏は、ドローンだとするものが再び飛来すれば「恐ろしい結果」につながると韓国政府に警告した。与正氏はその後、挑発行為とされるものの背後に「(韓国)軍のギャング集団」がいることを示す「明確な証拠」があると述べた。

北朝鮮は、上空を飛ぶドローンだとする不鮮明な画像や、ビラだとする画像を公開している。これらの主張を独自に検証する手段はない。

韓国は当初、北朝鮮側へのドローンの飛行を否定していたが、韓国軍合同参謀本部は後に、北朝鮮政府の主張について肯定も否定もできないとした。

現地では、過去に北朝鮮側に風船を使って同様の内容を飛ばしたことがある複数の活動家が、今回のドローンを飛ばしたとの憶測が流れている。

韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」の朴相学(パク・サンハク)代表は、「北朝鮮にドローンを送ったのは自分たちではない」とし、ドローン侵入をめぐる北朝鮮側の主張を否定した。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信(KCNA)は、金総書記が14日に軍のトップや幹部、国家安全保障や国防のトップ、政府高官らと協議したと伝えた。

金氏は「即時の軍事行動の方向性」を定め、「戦争抑止力の運用と自衛権の行使」をするよう幹部らに指示したという。

韓国軍合同参謀本部の李誠俊(イ・ソンジュン)広報室長は、北朝鮮が南北をつなぐ道路で小さな爆発など「小規模な挑発行為」を行う可能性があると述べていた。

そして、南北間の象徴的な二つの道路、京義線と東海線で爆発が起きた。

いずれの道路も長らく閉鎖されていたが、今回の破壊行為は金氏が韓国側との交渉を望んでいないというメッセージを送るものだと、複数アナリストは指摘する。

韓国軍は爆破を受け、軍事境界線の韓国側で警告射撃し、北朝鮮に対する監視を強化したと発表した。

爆発の数時間後には、ソウルを囲んでいる京畿道は、反北朝鮮の宣伝ビラが境界線を越えて北朝鮮側へ送られるのを阻止するため、境界線近くの11の地域を「危険地帯」に指定した。

京畿道の副知事は、「京畿道は北朝鮮に向けてビラをまく行為について、軍事衝突を引き起こしかねない極めて危険な行為だと判断した」と記者会見で話した。

そして、「南北関係が急速に悪化」している中、このようなビラの散布は「住民の声明と安全」を脅かしかねないと付け加えた。

何を表しているのか

複数アナリストによると、今回のドローン事案は、北朝鮮が自国に対する脅威がエスカレートしているように見せかけることで、国内での支持を強化していることを示唆しているという。

韓国を指して「分離国家」といった言葉を使ったり、「同胞」や「統一」といった言葉を使わないのもこの戦略の一環だと、韓国・釜山にある東亜大学校で政治学と外交を教える姜東完教授は述べた。

「北朝鮮政権は恐怖政治に依存しており、それには外敵が必要だ」と姜氏は指摘。「緊張が高まるたびに、北朝鮮は体制への忠誠心を高めるために外敵脅威があると強調している」とした。

アナリストたちは、やられたらやりかえすという南北間の状況は、双方が「チキン・ゲーム」に陥っていることの表れだとみている。

「今のところ、いずれの側にも譲歩する気はない」と、ソウルにある北韓大学院大学校の金東葉教授は述べた。

相互不信がある以上、韓国政府は「この危機への対処の仕方を戦略的に検討する必要がある」と、金教授は付け加えた。

南北は戦争に向かうのか

現時点ではそれはないと、アナリストたちは言う。

「この状況が戦争が起きるレベルにまでエスカレートするとは思えない。北朝鮮は国内の結束を強めるために軍事的対立を利用している」のだと、前出の姜教授は指摘した。

金教授は、「全面戦争を始める能力が北朝鮮にあるのか疑問だ。(北朝鮮)政権はそのような衝突が深刻な結果をもたらすであろうことを十分わかっている」とした。

ソウルの高麗大学で北朝鮮研究が専門の南成旭教授は、ドローン飛来疑惑をめぐる最近の論争は、「言葉の戦い」にとどまる可能性が高いと説明。

韓国と北朝鮮の両政府とも、自分たちは本格的な戦争のコストを負担できないとわかっていて、「実際に核兵器を使用する可能性は低い」と話した。

対立をめぐる大局は

朝鮮戦争は1953年に休戦となったが、平和条約は締結されていない。そのため北朝鮮と韓国は形式上は戦争状態にある。

韓国との統一は、建国時からの北朝鮮のイデオロギーの一部だった。金総書記が1月に「南北統一」の目標を放棄するまでは。

金氏は自国をウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアに接近させ、韓国の重要な同盟国であるアメリカや西側諸国と対立している。

また、北朝鮮にとって最も重要な同盟国である中国との長年の関係も重要といえる。ドローンをめぐる出来事を受け、中国外務省の報道官は15日、朝鮮半島における「対立のさらなる激化を回避」するよう全ての当事者に呼びかけた。

11月の米大統領選挙が迫るにつれて、朝鮮半島の緊張は高まっている。

(英語記事 Drones, threats and explosions: Why Korean tensions are rising

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn8je71x9e5o


新着記事

»もっと見る