最も重要なことは、トランプは米国の民主主義に対する真の脅威であるということである。トランプの経歴、特に政治上の経歴が示しているのは、トランプは法の支配を軽侮しており、憲法秩序を保持することへのコミットメントを一切持たないことである。
ハリスが当選すれば、彼女は私が反対するようなことを行うであろう。しかし、ハリスは、権威主義的体制を押しつけることも、2028年の大統領選挙で負けたとしても大統領府から去ることを拒否するようなこともしないであろう。トランプはこの後者をすでに行ったし、前者を行う可能性が大である。
トランプは、チェック・アンド・バランスが効かない存在になろうとしている。ひとたび民主主義が壊れてしまえば、それを再建するのは困難な道のりになってしまう。
従って、11月5日に私はハリスに投票する。ハリスが当選後に奇跡を起こすことは期待しない。それでも、過去30年間の米国の外交政策の漂流の行き過ぎを認識し、船を新たな方向に向けてくれるだろう。
トランプのショーはすでに見た。続編は最初のものよりもひどいものになろう。私のようなリアリストにとって容易な選択である。
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ウォルトが立場を修正した背景
この論説の筆者のスティーヴン・ウォルトは国際政治理論におけるリアリズム(「力」「勢力均衡」「権力闘争」を重視)の泰斗である。上記の論説では、そのウォルトがリアリストという立場を強調しつつ、トランプではなくハリスを次期大統領に選ぶべき旨主張している。
ウォルトは、リアリストの中でも、対外関与を選択的にすべきとのオフショア・バランシング論を提唱してきており、そうしたウォルトの立場は、ウォルト自身も言及しているように、トランプと親和性が高いようにも思われる。
ウォルトは、本年1月に、「トランプ政権となっても米国の外交政策は大きく変わらない」という論説を書いており、そこではウォルトは、トランプ政権となるのと民主党政権の継続となるのでは、国内政策では違いは大きいも、ウクライナ、中東、中国といった主要外交課題における対応方針では大きく相違しないであろうと論じていた(当時、民主党の候補はバイデン現大統領であった)。