しかし、国連等の世界の主要な多国間機関が機能不全に陥っている時に、BRICSは参加国にとり具体的な協力の場となっている。Foreign Policy誌のキース・ジョンソンによれば、BRICSの背後にあるグローバル・ガバナンスの改革と政治および財政面での主権のより大きな役割といった活気あるアイデアは、今日でも、増大する参加希望国を惹きつける上で十分な広がりを持つ。
ワシントンのクインシー研究所のサラン・シドレによれば、すべての欠点と問題の多いメンバーにかかわらず、成長するBRICSは、国連システムに取って代わることはできないが、バランスを失った世界に対する多くの必要な是正策の一つだ。
さらに、アレクサンダー・ガブエフとオリバー・ストゥエンケルはForeign Affairs誌で、西側諸国は、このブロックをもっと真剣に受け止め、その不満のいくつかを是正するために努力すべきだと論じている。豊かな国は、技術の共有やグリーン移行を支援するなど、貧しい国の問題解決にも貢献し得る。
国際通貨基金(IMF)や世界銀行のトップを欧米人が独占するという時代錯誤の伝統を廃止するなど、世界秩序を民主化するためにもっと真摯に努力すべきだ。
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拡大、変質するBRICS
今回のBRICSサミットには、首脳級20カ国を含む35カ国が出席し、その中には北大西洋条約機構(NATO)および経済協力開発機構(OECD)加盟国のエルドアン・トルコ大統領も含まれ、ロシアが国際的な孤立状態には無いことを示すプーチンの狙いは成功したと言える。
他方、BRICSが反米同盟の方向に歩みを進めたとは言えず、採択された134パラグラフの首脳の安全保障の部分では、ウクライナについて1パラだけ触れているが、国連憲章の目的と原則の尊重と対話と外交による平和的紛争解決を呼び掛けるだけのもので、ロシアの立場は全く反映されていない。ただ、西側の経済制裁についてこれを国際法違反とし、国際経済に与える破壊的な影響に対する懸念を表明している点は留意の必要があろう。
また、経済面では、脱ドル化のための加盟国通貨による決済手段の導入等国際金融システムの改革については、方向性は確認されたが具体的な進展は見られず、技術的な問題と共に加盟国の対米関係や利害、関心が一致していないことの反映とみられる。
インドは、クアッドのメンバーでもあり、ブラジルや南アも米国とロシア・中国の間での選択を迫られることは望まず、BRICSが拡大して行けば尚更、政治的な反米同盟化の方向に進めることは難しくなるであろう。他方、経済面については、利害の違いはあっても蓄積されている欧米中心の国際経済秩序への不満を背景に、BRICSが国際経済ガバナンスの改革を求める動きは今後も継続するので、西側としてはBRICSを無視し、軽視するべきではない。