対中関係改善のヒントは
東南アジア諸国に学べ
中国と向き合うにあたって、日米同盟を外交の基軸に据える日本は、欧米諸国と足並みをそろえざるを得ない。隣国としての中国と勢力均衡を維持してゆくには、「普遍的な価値」を共有する欧米諸国の存在・提携は必要不可欠である。それは当然ながら、欧州諸国はもとより米国でさえも、極東・東アジアは距離的心理的に極めて遠隔で、往々にして当事者意識が乏しい。これまた当然で、日本人が東欧・中東・アフリカに関心が低く、その問題を何も知らないのと同じである。
したがって欧米との連携、その「普遍的な価値」の共有だけでは、およそ十分ではない。中国自体のことをもっと仔細に観察研究すると同時に、いっそう深く中国と関わらざるを得ない国々の向き合い方も参考にすべきであろう。
例えば東南アジア諸国からは、学ぶ点が少なくない。日本よりもはるか以前から直接中国と対峙し続けてきたからである。
ベトナムやフィリピンはその典型であり、あれほど衝突を繰り返してきたにもかかわらず、中国と全面対立に陥る愚は犯さない。日本ではフィリピンと中国の衝突事件しか報じないが、フィリピン国内では中国との提携を望む声も多いことは見逃せないだろう。
かたやベトナムは史上、何度も侵入してきた中国と交戦し、そのたびに中国軍を退けてきた。対中感情がよいはずはない。現在も南シナ海問題では、忌憚なき中国非難を繰り返している。先般の東南アジア諸国連合(ASEAN)会議でもそうだった。それでも書記局常務を訪中させ、直後に李強を自国に招き歓待するのである。
中国に屈服するつもりはないし、米国の手先になる気も、なおさらない。このように対立と協力を兼ね備えて使い分けるのは、「グレーゾーン」を設けたい中国の原理的な姿勢と平仄が合っている。歴史的に中国と関係が深く、華人華僑をおびただしく抱え、中国のモノの見方や考え方を身に染みて会得している東南アジア諸国ならでは、といってよい。
もちろん立場も国情も、日本と異なる。それでも諸国の姿勢・言動をつぶさに知ることは、対中関係の見直し、対中政策の改善にまったく無益だとはいえまい。少なくとも黒白択一的な日本の姿勢を自省する手がかりにはなるはずである。
中国の軍事力は東アジアで冠絶し、安全保障環境は悪化の一途、およそ有事は破局に直結するにちがいない。そしてこちらの原理原則が通用しない相手である以上、抱える問題で譲歩せず、しかも有事化しないようにするのが重要である。
しかしそれは日本だけではない。中国は中国で、ロシア・インドはじめ、多くの国々と隣接している以上、日本よりもはるかに複雑な問題を抱えている。おそらく苦境は日本に勝るとも劣るまい。
新政権の発足はよい機会である。あらためて東アジアの情勢を見極め、冷徹な関係の再構築を計らねばなるまい。