2025年1月12日(日)

令和のクマ騒動が人間に問うていること

2024年12月10日

人間は「押し戻せる」か
この危機をどう乗り越える

 昨年度の深刻な人身事故などを受け、クマ類の指定管理鳥獣への追加による予算化や市街地に出没した際の対応に関する法律改正など、国レベルでの検討が進められている。大きな枠組みでは、転換期を迎えているといえるだろう。

 しかし法制度改正や交付金事業が効果のある対策として現場まで落とし込まれるためには、道のりは遠いと言わざるを得ない。それは、管理を担う自治体に野生動物管理の枠組みをプランニングし、運用する人材を配置するという考えが不足しているからである。

 農業・林業の普及員、土木系技術員、獣医師のような職種は法律で配置を義務付けられているが、鳥獣関係では、そのような法制度はない。つまり、どんなに制度が変わり予算が配分されても、何をすべきか、どこを対策優先地域とすべきかといった計画を考え、実行する人材がいなければ現場は動かないし、現状を変えることもできない。

 都道府県にはどのような職員が求められるのだろうか。まず重要な役割は、県域もしくは個体群ユニットという大きなエリアの生息と被害状況を把握し、データと解析結果を読み込んで、軋轢を低減するために何をすべきかという管理方針を定めることである。つまり科学的なデータを収集・蓄積し、適切な分析を行う科学行政官が必要だろう。また、市町村レベルで対応が困難なことへの支援も重要な役割である。

 市町村の場合は、速やかに住民の安心安全を確保する義務があるため、すぐに駆け付け、出没予防や出没時の具体的な対応力が求められる。このような現場対応が可能な鳥獣対策員がいる市町村も徐々に増え始めているが、クマ類に対応可能な人材は限られている。しかし、市町村に1人でもいれば住民の安心安全は飛躍的に保たれる。

 今後の地方はますます人口が減少し、集落環境を維持することが難しくなる。土地利用のグランドデザインを考え、どのように野生動物たちの力を押し戻していくか─。今まさにそのことを考えていくためにも現場対応の職員が出動し、現場で何が起きているのか情報を蓄積していくことから始めなければならない。鳥獣対策員をこれからの中山間地域での重要な職種とすることで、地域の魅力づくりにも一役買うのではないかと思う。

 理想としては、都道府県レベルに「科学行政官の配置」、市町村レベルに現場指導を行う「鳥獣対策員の配置」が必要と考える。これは本来、いわゆる鳥獣保護管理法に基づく特定計画を実現するために必須であるが、特定計画制度発足以降、実現している自治体は非常に少ない。

 必ずしも野生動物に関する専門知識を学んでいなくても、科学的思考ができる人材を配置し、業務を通じた訓練を充実させることで実現することは可能である。

 これまでの行政官はジェネラリストが求められてきたが、発想の転換と人材配置が喫緊の課題である。これを野生動物対策の現場から始めてみてはどうだろうか。

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Wedge 2024年12月号より
令和のクマ騒動が人間に問うていること
令和のクマ騒動が人間に問うていること

全国でクマの出没が相次ぎ、メディアの報道も過熱している。 しかし、クマが出没する根本的な原因を見落としていないだろうか。人間はいかに自然と向き合い、野生動物とどう生きていくべきか。人口減少社会を迎える中、我々に必要とされる新たな観点を示す。


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