しかし、世界は引き続き危険である。プーチンがウクライナについて安価な平和を提案するとは思われない。中国は軍事増強を継続している。東アジアの主要な同盟国はトランプの貿易政策を嫌い、米国の信頼性に疑問を抱いている。
中国、ロシア、イラン、北朝鮮は、米国が偉大になることを望んでおらず、失敗することを望んでいる。トランプが直面する外国の敵は、トランプが先週打ち負かした民主党よりも賢く、財力を持ち、容赦ない相手である。その外国の敵を、知恵と力で上回らなければトランプの成功はない。
* * *
ウクライナもガザも起きていなかった
上記は、米国外交の大家であるミードによる第2期トランプ政権における外交を占う論説である。そこで示されている通り、トランプの視座(「ドクトリン」)ではなく、米国を取り巻く外的環境(「出来事」)によって、トランプの外交が規定されると捉え、1期目をスタートさせた17年の状況と現在とを対比したものである。
今日の世界における主要な関心事は、二つの戦争(ロシア・ウクライナ戦争、中東における紛争)と一つの発火点(東アジア)である。17年には、ロシア・ウクライナ戦争は起こっておらず、中東において多発的に戦火が上がる状況も23年10月以降のことである。17年には、すでに大国間競争の時代になっていたと言って良いが、戦火と流血という点では、現在は異なる次元に上がってしまった。
その間、世界の分断が進んだ。西側諸国とロシアは、現在、直接に戦火を交えているわけではないが、戦争で相対する陣営に属する形となった。17年には、ロシア、中国、北朝鮮、イランはそれぞれ親和的な関係であったが、これら4カ国間の連携ははるかに進んだ。ロシアの戦争に北朝鮮が参戦し、中国・イランが間接的な支援を行う状況は、17年には見られなかったものである。
17年と対比すると、世界では、自由でオープンな秩序への志向が大きく後退した。16年には、英国における欧州連合(EU)離脱の国民投票での離脱派の勝利と、トランプの当選が世界を驚かせたが、今日では貿易においても、人の移動においても、国境を管理する動きが多くの国で広がっている。
その間、人々の生活面での不満が募った。新型コロナ・ウイルス感染症の影響を脱しようとしたところで、ロシア・ウクライナ戦争が起こり、エネルギー価格をはじめ物価が高騰した。人々が不満を募らせる中、多くの国で与党が選挙に勝利することは難事となり、急進右派、急進左派の台頭が見られるようになった。