そのままの親を受け入れる
実は、私の周囲では、「実家の掃除をしたい」「片づけたい」という声はとても多い。しかし、「掃除をしても、また元に戻った」「迷惑がられた」「使いづらくなったと不評だ」などの声も同じくらい多いのだ。
山中さんも、親の部屋の様子が気になりだした当初には、「ガンガン整理整頓した」そうだ。しかしこちらに関しては、「川内さんに『本人が居心地がいいなら、それを大事にすべきだ』と諭されました。きれいにしたぞという自己満足のためにやっていたと思います」と、今では反省しているとか。
「休暇を取って帰省までして部屋をきれいにしたのに、部屋はすぐ元に戻ってしまいました。頑張っても意外に本人は喜ばないし、不衛生でない限りは鷹揚に構えないと、自分がまいってしまいます」と、山中さん。
川内さんは、こう説明してくれた。
「親御さんがその状態で気持ちよく暮らせているのなら、それを変えるのは子世代のわがままなのかもしれませんよ。親にはいつでも、またいつまでも立派であってほしいという気持ちになってしまうものですが、そうなると、片づけたいというのは、立派であってほしいという子世代の単なるエゴかもしれません。親御さんの素の性格やキャラクターは、子供に見せてきていたものとは違うものなのかもしれません。ですから、親御さんの『本来の姿』を受け入れる度量を持つことも、子世代に求められる介護準備の一つと言えるかもしれません」
親の「大切なこと」に思いを馳せる
介護の準備というと、どうしても実務的な事柄を考えようとしてしまうけれど、親の「人となり」を見つめ直し、理解していこうとすることこそが、子世代にとっての大きな準備になるのかもしれないということか。
川内さんは、「となりのかいご」HP内のブログに、このように書いている。
「家族が直接関わると『こうあって欲しい』という思いが先行して、親が老いていく生活の中で『何を大切にしたいのか』を考えることが難しくなり、親子関係が悪化することがあります。『一人にしておけない』といった感情的で一時的な判断で親のサポートに入ると、やりすぎ介護となり、結果、あなたに過度な負担がかかり、自身が倒れてしまうことも……。客観的な判断をプロと一緒に行い、親にとってベストな選択をしていただければと思います」
川内さんの助言を受けてプロの手を借りて遠距離介護を行った山中さんは、自分一人で抱え込もうとしていたときのことを振り返って、おっしゃった。
「自分の母親は、甘ったれでうるさくて自己中心的で……と欠点ばかり目についてイライラすることが多かったのですが、母親が今入っているグループホームの方に言わせると、『おしゃべりで明るくて、こんなチャーミングな方はいない、入居していただいてありがたい』(笑)と。母のダメなところと思っていたポイントが、集団の中に入るとすべてプラスに転じる。親のいいところは、家族だとなかなかわからないものなのかもしれませんね」
お二方の話を聞いて思った。年末年始に高齢の親を持つ子世代が「行いたい第一」は、部屋を(勝手に)片付けたり、親の能力をチェックしたり、免許返納を迫ったり(!)、「物忘れ外来」にいざなう画策をしようとすることではなくて、親の希望や好きなものや「親自身」を知ろうとすること、つまり、親に心を寄り添わせようとする時間を持つことなのかもしれない、と。