2025年に臨界点が来る?
ロシア経済は23年に3.6%成長し、24年も4%に迫る成長が確実視されている。「制裁は効いていないのか」、「制裁など無意味だったのではないか」ということがしばしば問われる。
筆者自身は、制裁が無意味だったとは考えていない。ロシア国家、プーチン政権の特質を考えれば、制裁でその行動を変えさせたり、ましてや政権を倒したりすることは、至難である。
それでも、制裁は確実にロシアに困難を強い、その結果としてひずみが蓄積され、部分的には矛盾が噴出し始めている。上述のバター騒動にしても、むろんそれだけで政権が倒れるわけではないが、兆候の一つと捉えられよう。
果たして、25年にひずみが臨界点に達し、矛盾が一気に表面化して、ロシア経済が立ち行かなくなるような事態はありうるだろうか? プーチン政権に批判的な論客たちは、その可能性を指摘し始めている。
かつてロシア政府でエネルギー省の次官を務め、その後反プーチンに転じたミロフ氏は、25年が決定的な年になると主張している。ロシア経済にはもはや新しい投資はなく、財政刺激の効果も低下している。25年にロシアはマイナス成長に陥るかもしれず、スタグフレーションに突入する可能性がある。
確かに使い捨てドローン、爆弾、弾薬といった単純な軍需品の生産は拡大しているが、戦車、装甲車両、航空機といった高度な品目の生産は困難に直面している。財政のリザーブである国民福祉基金も払底しつつある。ロシアは今日のような高強度戦争をこれ以上続けることはできないというのが、ミロフ氏の見立てである。
スウェーデン出身の経済学者で、旧社会主義諸国の経済をウォッチし続けているオスルンド氏も、ロシアのマクロ経済の失敗は25年、しかもその早い時期に、決定的な要因となるだろうと論じている。
かつてロシア中銀の顧問を務め、今はロシアを離れて、ロシア経済を鋭く斬る論客として脚光を浴びているのが、プロコペンコ氏である。彼女は暮れに発表した論考で、ロシア経済が好調に見えても、現実には財政ドーピングを施したアスリートのようなものであり、持続は不能であると論じている。路線修正がなければ、現在の勢いは1年以内に失速するかもしれず、26年から27年にかけて財政・社会危機が現実のものとなる可能性があるという。
プロコペンコ氏によると、1990年代のような突然の崩壊は考えにくい。政府は最低限の秩序と統制を維持するための資源をまだ持っている。しかし、我々はすでに、経済停滞への不可逆的な転換を目撃している。軍事部門と動員主導モデルに依拠し続ければ、ロシアは低成長と慢性的な内部不均衡を特徴とする「停滞の罠」に陥るだろう。プロコペンコ氏はこのように論じている。
ロシア経済の実情をどう見るかは、停戦の是非論ともかかわってくる。ロシア経済が崩壊寸前だという認識に立てば、セコンド役の我々はウクライナに対し、「もう敵はフラフラだぞ。あと少しだ。頑張れ」と言ってあげられる。しかし、どうもロシアは倒れそうもないとなると、その不都合な現実を前提に考えなければならない。
かといって、米国のトランプ次期大統領の早期停戦案に安易に乗れば、それはロシア経済を延命させ、次なる侵略の基盤になってしまうかもしれない。正解のない難問である。