5.政府主導で「長期貯蓄プログラム」を立ち上げ
ロシアでは24年初めから、「長期貯蓄プログラム」が始動した。すでに200万人以上のロシア市民がこのプログラムに参加しており、貯蓄額は1450億ルーブルに達している。
このプログラムでは、市民は非国営年金基金に貯蓄口座を開設し、そこに保険料を振り込むことで、国からの追加的な支払いと税控除を受けることができる。
政府は26年にはこのプログラムで国内総生産(GDP)の1%を超える2.3兆ルーブルを調達する大胆な目標を掲げている。そして、それを原資として国の大規模プロジェクトへの投融資に充てたい考えである。
6.仮想通貨マイニングが合法化されるも制限付き
ロシアは以前から仮想通貨マイニングの世界的プレーヤーだったが、法制化は遅れていた。24年、プーチン大統領は待望の仮想通貨マイニング法に署名した。これにより、ロシア市民、法人が合法的にマイニングに従事することができるようになった。
ただし、仮想通貨は国際的な決済手段としてのみ使用でき、ロシア国内では依然として投資の手段でしかない。さらに、政府はマイニング業者に対し、エネルギー消費量に制限を設けた。電力が不足している地域では、マイニングが完全に禁止されるケースもある。
今般の法律は、仮想通貨分野への大規模な投資の可能性を開くものである。専門家らは、今後数年でロシアが米国を追い抜き、仮想通貨マイニング量で世界1位になる可能性があると予想している。
7.凍結されていた資産の交換を実施
ロシア政府は、制裁により凍結されていたロシアの在外資産と、ロシアで凍結されていた外国の資産を交換するプランを立て、24年に2度交換を実施した。これにより、ロシアの在外資産106億ルーブルを取り戻すことができた。また、12月に財務省はロシアが発行したユーロ債のうち64%(208億ドル相当)をロシア国内債に転換することに成功した。
8.ロシアがBRICSの決済プラットフォームを提唱
24年にロシアが新興国グループBRICSの議長国を務め、その流れでBRICS諸国が独自の国際金融決済プラットフォーム「ブリッジ」を創設するという構想が浮上した。これが実現すれば、BRICS参加国だけでなく、その枠外にある国々さえも、米ドルを利用せずに決裁や投資を行うことができるようになる。
実現すれば、世界通貨としての米ドルの地位が損なわれることになる。もっとも、新たなプラットフォームはまだ機能しているわけではないし、専門家らはこのようなプロジェクトの実現は簡単ではないと指摘している。
9.「ナショナルプロジェクト」を拡充
ロシア政府は24年、新たな「ナショナルプロジェクト」を承認した。30年までに40兆ルーブルを超える予算と、少なくとも13兆ルーブルの予算外投資が計画されている。
これらのナショナルプロジェクトは、プーチン大統領が発表した国民的目標(人口維持、家族支援、人材育成、環境保護、技術主権)を達成するために必要なものである。
24年には、技術主権、インフラ、社会的支援、経済発展という4つの分野で、計19のナショナルプロジェクトが承認された。25年春までには「バイオエコノミー」が加わって20になる予定である。
10.高速鉄道網の整備に着手
プーチン大統領は24年春、ロシアで最も野心的なインフラプロジェクトであるモスクワ~サンクトペテルブルグ高速鉄道の着工を発表した。総工費は2.2兆ルーブルを想定。完成すれば、両都市を2時間あまりで結ぶことになる。
しかも、本プロジェクトでは、線路を建設するだけでなく、高速鉄道車両もロシア自らが開発・生産することになる。ウラル機関車工場がそれを担い、最高時速400キロメートル(km)での走行が可能な車両が生み出される。
モスクワ~サンクトペテルブルグ路線はパイロットプロジェクトであり、その後にはカザンおよびエカテリンブルグ、アドレル、そしてベラルーシのミンスクに延びる路線の整備が計画されている。
庶民の肌感覚とは乖離
以上が、国営ノーヴォスチ通信による24年ロシア経済10大ニュースであった。筆者の印象では、政治や軍事のテーマと比べて、経済に関しては、ロシアの公式メディアはまだ最低限の客観性を保っており、否定的現象にも一応は言及する。
しかし、全体として今回の経済10大ニュースでは、政権が国民生活を守るために万全を期していることが強調され、国のかじ取りによって大きな混乱は回避しているというストーリーになっている。また、プーチン政権がナショナルプロジェクトやインフラ整備計画によりロシアの発展を主導し、またBRICSの結束で欧米主導の制裁網も打破しつつあるという筋書きになっている。
むろん、庶民の肌感覚はかなり異なる。「フィナンシィ・メイル」という別のメディアが年末に行ったアンケート調査によれば、24年の最も重要な経済的出来事としてインフレを挙げた回答者が47%に上り、圧倒的な1位だった。ノーヴォスチ版の経済10大ニュースでは「1.経済の過熱」の中でさらりと触れられていただけのインフレが、実際には庶民最大の懸念事項だったわけである。