トランプ時代にもしたたかに対応するインド
一方、南アジアの大国であり、世界で最も有望なアジア新興国として台頭しているインドはどうか。まず政治外交面では、トランプ氏はインドに対して並々ならぬ関心をもっている。第1期政権のときから、インドを重要国として位置づけ、モディ首相とも会談を重ね、尊重する姿勢を示してきた。
その背景には、インドが大国であること(人口は中国を抜いて世界1位に)、モディ首相の強いリーダーシップ、対中戦略における役割があると考えられるが、トランプ氏個人のビジネスへの関心も影響しているかもしれない。トランプ第1期政権において米印両国は安全保障、技術、経済の主要分野で連携を強化し、日米豪印(クアッド)での協力を進め、バイデン政権もさらにその関係を発展させた。このトレンドはトランプ次期政権においても継続するだろう。
一方、経済面では、東南アジアと同様、貿易不均衡が問題となり得る。米国におけるインドの財貿易赤字(2023年)は11位であり、この点についてはトランプ氏も第1期政権のときから批判し、インドは一般特恵関税(GSP)の対象から外された。また高度技能労働者向けのH-1Bビザの発給を制限し、在米エンジニアを多く輩出するインドの反発を招いた。
もっとも貿易不均衡については、インドは米国から兵器や航空機の購入を増やし、トランプ氏から高い評価を得た。H-1Bビザについては、昨年の米大統領選後、トランプ氏と近い関係にあるイーロン・マスクとヴィヴェク・ラマスワミ(インド系)の両氏がその拡大を主張し、反移民派と論争が起こったが、トランプ氏は同ビザが米国の発展に貢献するとの見解を表明し、マスク氏ら側に立つ姿勢を示した。インドの有識者はいずれの問題も米印関係の大きな妨げにはならないとの見方を示している。
このように、インドは政治外交と経済の両面において米国との間に関係強化の利益を共有しており、その関係が阻害されるリスクが少ない。同じアジア新興国でも東南アジア諸国とは対照的である。それどころか、バイデン・民主党政権からは人権と民主主義について批判される面があったのに対し、これらの価値観に重きを置かないトランプ氏の方がむしろ付き合いやすい面すらある。世界的に見ても、トランプ2.0のリスクを最も受けにくく、場合によってはチャンスを見出すこともできる稀有な国と言えるだろう。インドは、米中対立や脱中国シフトを政治的にも経済的にも追い風にしており、「地政学の時代の勝者」ともいえる国だが、トランプ2.0の影響についても同じことが言えそうである。