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レベッカ・モレル科学編集長、アリソン・フランシス科学上級ジャーナリスト
米航空宇宙局(NASA)の宇宙船が採取し地球に持ち帰った小惑星「ベンヌ」の粒状のちりから、生命の化学的構成要素が見つかったことが、最新の分析で明らかになった。
ベンヌの試料からは、豊富な鉱物と数千の有機化合物が発見された。これには、たんぱく質を構成するアミノ酸や、DNAの基本成分である塩基も含まれていた。
今回の発見は、ベンヌにかつて生命が存在したことを意味するわけではない。しかし、小惑星が数十億年前に地球に衝突した際に、こうした重要な成分を地球にもたらしたという理論を支持するものだ。
科学者らは、これらの化合物が太陽系の他の惑星にももたらされた可能性があると考えている。
ロンドン自然史博物館の宇宙鉱物学者、サラ・ラッセル教授は、「この発見から得られた知見は驚くべきものだ」と述べた。
「これは私たち自身の起源について教えてくれるものであり、生命がどこで始まったのかという非常に大きな疑問に答えることができる。それに、生命の始まりについて知りたいと思わない人はいない」
この研究結果は、学術誌「ネイチャー」に掲載された2件の論文で発表された。
直径500メートルほどのベンヌの一部を採取することは、NASAがこれまでに試みた中で最も大胆なミッションの一つだった。
小惑星探査機「OSIRIS-REX(オサイリス・レックス)」は2020年、ベンヌの試料収集するためにロボットアームを展開。それをカプセルに詰め、2023年に地球に帰還させた。
約120グラムの黒いちりが収集され、世界中の科学者に共有された。この量は多くないように思えるが、実際には宝の山であることが証明されている。
「一粒一粒がベンヌについて新しいことを教えてくれる」と、ラッセル教授は述べた。
イギリスの研究者らには、小惑星の約小さじ一杯分が送られた。
新しい研究によると、ベンヌには窒素や炭素を豊富に含む化合物が詰まっていることがわかった。
これには、地球上の生命がたんぱく質を構築するために使用する20種類のアミノ酸のうち14種類と、DNAを構成する四つの環状分子(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)が含まれている。
この研究では、鉱物や塩類の配列も発見されており、かつてこの小惑星に水が存在していたことを示唆している。生化学反応に重要なアンモニアも、試料から発見された。
これらの化合物の一部は今回、地球外の岩石から初めて検出された。
「その豊かさは信じられないほどだ。これまで隕石で見たことのない鉱物が詰まっており、その組み合わせも初めて見たものだ。非常に興味をかき立てられる研究だった」と、ラッセル教授は述べた。
近年の研究により、小惑星が地球に水と有機物をもたらしたという証拠が増え続けている。
「初期の太陽系は非常に混沌(こんとん)としており、ベンヌのような小惑星が数百万と飛び交っていた」と、ロンドン自然史博物館のアシュリー・キング博士は説明した。
この考え方は、こうした小惑星が若い地球に衝突し、海を形成し、生命につながる成分を植え付けたというものだ。
だが、地球だけが宇宙岩石に衝突されていたわけではない。小惑星は他の惑星にも衝突していたはずだ。
キング博士は、「地球はこれまでに生命が発見された唯一の場所であり、それが地球の唯一無二の特徴だ。しかし、小惑星が太陽系全体に炭素や水といった成分を運んでいたことは明らかになっている」と述べた。
「今私たちが理解しようとしている大きな課題の一つは、適切な条件がそろった場合、なぜ地球に生命が存在するのか、そして太陽系の他の場所でも生命を見つけることができるのかということだ」
これは科学者らが引き続き解明しようとしている重要な問いだ。
ベンヌから持ち帰ったちりや、まだ探査されていない宇宙の近隣部分について、科学者らは今後数十年にわたり研究を続ける予定だ。
(英語記事 Asteroid contains building blocks of life, say scientists