他方もし有罪となれば、副大統領は罷免され今後公的な職務に就くことはできないし、刑事民事訴訟にも直面する。
一般大衆の多くはマルコス家・ドゥテルテ家の反目に飽き飽きしており、このような政治ドラマは、貧困や失業問題など国家が直面する主要問題から指導者達の眼をそらしてしまっていると感じている。マルコス・ドゥテルテ両氏の支持率はここ数カ月大幅に落ち込んでいる。
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権力闘争はなぜ起きたのか
現下のフィリピン内政上の権力闘争を解説する記事である。トランプ政権が予測不可能な動きをする中で、米国にとってアジアの重要同盟国であり、南シナ海で中国と対峙するフィリピンの内政がガタつくことへの警鐘を鳴らす内容となっている。
まず事実関係等を整理すると、
(1)22年の大統領選で両者は手を組んだが、当初からいずれ両家の確執が表面化するだろうことは予想されていた。
(2)サラ・ドゥテルテ副大統領は就任当時教育相を兼務したが、23年頃より大統領の従兄弟であるロムアルデス下院議員(後に下院議長)との確執が目立ち始め、24年6月に教育相を辞任した(その過程で、選挙時にマルコス・ドゥテルテ両家の仲を取り持ったアロヨ元大統領が下院副議長を辞任させられたが、これはロムアルデス議員の策略であると言われている)。
(3)25年予算審議の過程で、6億ペソ(約15億円)を超える副大統領室および教育省の機密費の不正使用が問題とされ下院委員会で説明を求められたが、副大統領は十分な説明を行わず委員会と激しく対立、結果予算は大幅に削減された。
(4)その後も対立が激化する中で、昨年11月、サラ副大統領は記者会見で、「自分が殺された場合に、マルコス大統領夫妻とロムアルデス議長を暗殺するよう、殺し屋を雇った」と発言、大統領警護室も身辺警護を強化するなど国中が大きな騒ぎとなった。
(5)このような動きを受けて副大統領の弾劾動議が下院に複数提出され、2月5日に採決に付された。下院議員(306人)の3分の1(102人)が弾劾必要数であったが、実際は215人が賛成して弾劾動議は採択され、弾劾審査を実際に行うこととなる上院に送付された。採択時に議場では大きな歓声が上がったようである。
上院での弾劾採択には全上院議員(24人)の3分の2の賛成が必要となるが、上院には一定のドゥテルテ派が残っており、現在の構成であれば弾劾に必要な3分の2を得ることは難しい。いつ弾劾審査が開始されるかについては、エスクデロ上院議長は6月の中間選挙以降になるとの見解を示している。
フィリピンの選挙制度では大統領と副大統領はそれぞれ別に投票されるため、必ずしも同じ政党から選ばれるとは限らない。実際、前ドゥテルテ政権の副大統領には野党自由党のロブレド氏が選ばれている(その後ロブレド副大統領は閣議にも出られず実質的な仕事はほとんど任されなかった)。今回は選挙時からマルコス・ドゥテルテが手を組んだため当初は蜜月が続いたが、対立し始めるとこのような選挙の構造的問題が表面化することになる。