海外での休暇を楽しみつつ、就労も可能なワーキングホリデー制度(ワーホリ)が日本と豪州の間で始まったのは1980年のことだ。
以来、各国での導入が進み、現在は約30カ国・地域にまで広がった。中でも豪州のワーホリ事情が2023年から、メディアやSNSで急激に話題になった。それはあるテレビ番組で、こんな若者たちの声が紹介されたのがきっかけだ。
「残業なしの介護アシスタントで月収80万円」
「ブルーベリー摘みのアルバイトで月収50万円」
時はまだコロナ禍である。豪州では外国人の入国が制限され、人手不足に陥った職種に日本人たちが運よく滑り込んだ。これが「出稼ぎワーホリ」として報じられたのだ。海外留学の支援を行うワールドアベニュー(東京都新宿区)の松久保健太代表が、その実態を解説する。
「日本料理店も賃金を割増ししてでも人手が欲しかった状態でした。だから、特に語学力がなくても仕事が簡単に見つけられた。その若者たちの声がメディアで紹介され、ワーホリビザの取得者が急増しました」
豪州を対象にしたワーホリビザの発給件数はこれまで、年間1万件ほどを推移してきたが、23年は1万6000件を超え、過去最多を記録した。松久保代表は続ける。
「ところがいざ行ってみたら仕事がなくて困った若者が続出し、そんな彼らの声が報道されてワーホリへのマイナスイメージが強まりました」
仕事探しが難しくなったのはコロナ明けで外国人が戻り、競争が激しくなったためだ。無料で食事が配給される「炊き出し」に並ぶ日本の若者もいたというが「無料でもらえればラッキーぐらいの感覚で、困窮はしていません」(松久保代表)。
炊き出しに並んだ知人がいるという、豪州でワーホリ中の田部望さん(31歳)もこう語った。
「並んでいる人の中には女性もいるんですよね。彼女は語学学校に通っている時に、教会主催の炊き出しに並び、パンをもらっていました。食費を抑えるためと、同じように並ぶ他の日本人との情報交換の場に使っていると。住む家もあります。ホームステイ中に炊き出しに並び、野菜をもらったという女性にも会ったことがあります。みんな割と軽い気持ちで行くんですよね」
日本の路上生活者や生活保護受給者たちが並ぶ炊き出しの現実とは異なっているということだ。