こうした「出稼ぎ」騒動もコロナ明けから1年以上が経過した24年春ごろには落ち着き、現地での職探しはコロナ前の日常に戻りつつあるという。その日常とはどのようなものなのか。
そもそも海外暮らしは一筋縄ではいかない。
私自身も20年前、ワーホリで豪州の最大都市シドニーへ渡り、その後はフィリピンを拠点に10年以上働いたが、それらの経験から得た実感はこの結論に尽きる。それは決してネガティブな意味合いではなく、環境も文化も日本とは異なるアウェイで生きていくのは決して「楽ではない」という当たり前の現実である。
現地での就職活動
給与未払いで不安な日々も
ビデオ通話の画面に映し出されたのは、天窓から自然光が差し込む広々とした空間だった。シドニー中心部にあるカフェから、林未羽さん(21歳)が現地での生活ぶりを説明してくれた。
「住み始めてまだ2カ月です。今は日本料理店でアルバイトをしながら、外国人の友人を作ったり、カフェで働くためにコーヒーの講習会に参加したりと初めての海外暮らしを満喫しています」
時給は27豪ドル(約2700円)と、豪州の最低賃金24.1豪ドルをやや上回っており、東京の最低賃金(1163円)に比べれば倍以上だ。数字だけ見れば魅力的に映るが、シドニーの物価もその分高くなるため、決して悠々自適というわけにはいかない。そもそも林さんは、「出稼ぎワーホリ」が目的ではなかった。自分を磨くために在籍中の名古屋外国語大学を休学し、今年9月にシドニーへ渡ったのだ。大学の授業で英語漬けの日々を送っていたため、語学学校には通っていない。シドニー滞在2日目から気に入ったカフェに足を運び、履歴書を持ち込んだ。
「1日に20店舗近く回った日もあります。それを2週間続けました」
梨の礫だった。このため知人に紹介された日本料理店で当面、働くことにした。
「私はお金をたくさん貯めて日本に帰国したいというより、今しかできないことをやりたいんです。カフェ探しも再開しました」
シドニーのカフェで7カ月働いた東洋大学3年生の松下磨生さん(22歳)は、時給が平日は30豪ドル、休日は37豪ドルだった。ホームステイ先のオーナーの協力で見つかった仕事だが、最初の3カ月間、給与が未払いだったという。
「他のスタッフも同じような感じで、『最終的に支給されるから大丈夫だよ』とは言われていましたが、不安でした。マネジャーに直接言いましたが、僕の英語力にも問題があったのでうまく伝わっていなかったのかもしれません。しつこく言い続けたら全額支払われました」
そして突然、シフトからも消された。日本ならあり得ないことが、海外では「常識」になると知った。
職種によっては雇用主側から足元を見られる場合もある。前出の田部さんはこれまで、豪州でラズベリー摘みなどのファームを2度経験した。日本の実家が営む中小農家で生計を立てていくことの難しさを実感し、海外のファーム体験をきっかけに、将来につながればとの思いだった。しかし、現場に入って早々、そんな期待は打ち砕かれた。