外交にも大きく影響
サラ副大統領は公金不正使用問題と「殺し屋発言」について、一般国民が納得できるような説明を行うことができず、支持率が一気に落ちてしまった。就任当初の70〜80%の支持率から40%台へ。ただしマルコス大統領の支持率も同程度に下がっている。
フィリピンには財閥を中心に多くの有力家系が存在するが、現状ではマルコス家とドゥテルテ家の政治的影響力が極めて強い。憲法上大統領は1期しか務められず、28年選挙で引き続き一族から大統領を輩出したいマルコス家としては、当面の強力対抗馬たるサラ副大統領の人気を叩いておきたいところへ、公金不正利用と殺し屋という格好の攻撃材料を副大統領が提供してくれたということであろう。
副大統領としては公金不正使用について説明責任をきちんと果たすべきであったし、真偽は別にして将来の大統領候補としての資質を疑わせるような殺し屋発言はあまりに軽率だった。
日本や米国から見れば、せっかくマルコス政権になって比米関係が大幅に改善し、防衛協力強化協定(EDCA)をはじめ比米同盟関係も深化し、日本との安全保障協力も拡大され、日米比の協力も推進されるなど、極めて好ましい進展が随所に見られてきたのに、全くの権力闘争でこれらに水を差されるのはたまらない。副大統領弾劾の理由の一つに、南シナ海における中国の挑発的動きに対してサラ副大統領が異議を唱えていないこと、という論点が入っており、マルコス派としては攻撃できる要素は何でも入れようとしたのであろうが、ドゥテルテ=親中派、マルコス=親米派のようなレッテル貼りは今回の弾劾事由には本来何の関係もなく、かえって政治的動機に基づく弾劾裁判との印象を強めるだけであろう。