覚悟なきご都合主義
一連の状況に共通するのは次の3つではないか。ひとつは、「その時々に不足する業種の働き手として外国人に来てほしいが、定住はしてほしくはない」という本音。もうひとつは、その本音を覆い隠すために、理屈だけは整えた建前だけの制度。そして最後は、「外国人への情報提供、教育、管理などにまつわる責任とコストは次代にツケ回しして、グレーにする」というご都合主義だ。
定住権を与える日系人の手法はコストが大きすぎた。しかし、人手を求める業界の声は無視できないから、職種を絞り期間も区切った制度を作った。だが、実質的な管理や不法行為の摘発は、天下り機関に外注したり、現場に丸投げする。研修生制度のハードルは低すぎたから、その反省を踏まえて看護・介護では「漢字」というハードルを作り、「一定期間、補助的に働いたあとは帰ってほしい」という本音を見え隠れさせる。これが、一連の施策の実態ではないだろうか。
しかし、そんな机上のもくろみを遥かに超えて実態はどんどん進んでいく。日本人が就きたがらない職場で外国人は本当に頼りになっている。いくら制度的には期限を作ったつもりでも、研修生も介護士も、おそらく定住化の流れが強まっていくだろう。
高度人材受入れを進める企業関係者はこう指摘する。「現実と乖離した研修制度や在留制度、その結果生じる不法滞在への高圧的態度など、日本の入管体制に対するイメージは悪い。高度人材受入れにも悪影響がある」
実態が進んでから対策を講じるのがいかに困難かは日系ブラジル人の実情が示している。東南アジアからの高度人材受入れを手がけるジョブストリートの菱垣雄介代表は「日本はこれまで好況期にばかり外国人受入れ政策を都合よく議論してきた」と指摘する。リーマンショックまでは盛り上がっていた「1000万人移民計画」や「留学生30万人計画」を思い出してみるとよい。
不況期の今こそ、長期的視野で社会のあるべき姿を模索し、コスト負担など日本人にとって不都合な部分も見つめ、徹底的な議論をするべきではないだろうか。
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