3月22-28日号の英エコノミスト誌は、南シナ海の座礁船をめぐって中国とフィリピンが対立し、フィリピンは国連に中国を提訴しようとしており、領海紛争の新たな火種になりつつある、と報じています。
すなわち、10日ほど前、南シナ海で座礁船に物資を補給しようとしたフィリピン船が中国の沿岸警備艇に妨害される事件が発生し、フィリピンは、中国の南シナ海への領有権主張には法的根拠はないとして、国連に中国を提訴しようとしている。
問題の船は、この海域が自国の排他的経済水域であることを示そうと、1999年にフィリピンが意図的に座礁させたもので、海兵隊員が少数配備されている。
中国は、補給船は建設資材を運んでおり、建設工事による現状変更は、2002年にASEAN諸国と中国が「行動規範」確立を目指して署名した「宣言」に違反すると主張しているが、座礁船は2002年の前からあるもので多少の修繕は許されて良いように思う。
中国は、国連海洋法条約は主権について裁定を下すものではないと主張する。国連がフィリピンの訴えを受理し、フィリピンに有利な判決を下しても無視すると言っている。
中国は国連海洋法条約国ではあるが、領海権主張の根拠は、1940年代の地図に描かれた「9点線」に置いている。それによれば、南シナ海のほぼ全域が中国領になる。しかし、国連海洋法条約は、領海や経済的排他水域は領土に基づいて決まるとしており、理はフィリピン側にある。
しかし、語るに足る戦力のないフィリピンは弱い立場にあり、そのフィリピンを中国は外交面でも孤立させようと、他のASEAN諸国の機嫌をとってきた。
もっとも、ASEAN諸国も中国の振る舞いに不安を抱いており、この懐柔戦略は功を奏しないかもしれない。ベトナムもマレーシアも中国との領海問題を抱えている上に、ベトナムは、外国船は中国の漁業許可を得なければならないとする新たな法律に危機感を強め、マレーシアは航空機失踪事件で中国と関係が悪化し、これまで領海問題がなかったインドネシアも、「9点線」により中国と係争関係が生じると認めている。
そのため、地域では米国のアジア回帰――特に軍事面――を歓迎する空気が生まれている。フィリピンは、国民の反米感情から1992年に米軍基地を閉鎖したが、新たな米軍配備について目下交渉中だ。