継続して取り組む必要があるこの問題は、第3回の報告書でもテーマとして取り上げられました。その結果、重度の脳性まひになった対象事例188件の内、3割にあたる56件で子宮収縮薬が使われていたことがわかりました。そして、この子宮収縮薬が使われた56件の事例のうち8割近くにあたる43件で、初期投与量や増量する際のスピードが、診療ガイドラインや添付文書で規定された基準を大きく逸脱し守られていませんでした。残りの13件の中にもカルテ等の記載が不十分で投与量が不明なもの、また、使用中は連続的に分娩を監視しなければいけないのにされていなかったものなど、ガイドラインや添付文書の規定が全てきちんと守られていた事例はほとんどありませんでした。
患者が医薬品を服用する際には、使用上の注意を守るように厳しく指導されますが、医師が医療行為の中で患者に薬を使う際に使用上の注意を守らず事故を起こすということは、本来あってはならないことです。
子宮収縮薬の使用時は、必ず文書で説明と同意を
さらに、妊婦本人に子宮収縮薬を投与する同意を文書で得ていたのは2割にとどまり、口頭で同意をとったとしている事例も3割弱で、妊婦が知らない間に子宮収縮薬が使用され、赤ちゃんが重度の脳性まひになってしまっているケースが半数もあったことが明らかになったのです。
この薬は、添付文書の使用上の注意で「患者に本剤を使う必要性と危険性を十分説明し、同意を得てから使用すること」と記載されており、その際には、文書によって説明と同意を行うよう、注意喚起されてきましたが、文書で説明をして同意を得ていたのは2割だけでした。しかも、その文書の内容もどのようなものだったのかは不明です。
医療行為をするに当たって、患者に十分説明をして同意を得てから行うことを「インフォームド・コンセント」といいますが、実際、これまで子宮収縮剤を投与する際のインフォームド・コンセントのひな形として流通していた見本の文書も、不十分なものでした。「起こりうる有害事象」の欄で下記のような説明がされていたからです。
『過強陣痛:使用量に比例しないかなり強い陣痛(過強陣痛)となってしまう場合があります。過強陣痛が持続したり、悪化すると子宮の筋肉の一部が裂ける子宮破裂や、子宮収縮による子宮への血液の流れの減少により、赤ちゃんの低酸素状態が出現したりすることもあります』
『これらは子宮収縮薬を使用しない自然分娩でも起こることで、上記の危険性が自然分娩に比べて大きく増すことはありません』
このような文面では「子宮収縮剤を使用する場合と自然分娩で、過強陣痛が起こるリスクはほとんど変わらない」と思ってしまうでしょうから、人をだますための犯罪的な文書だと言って過言ではないでしょう。