2024年4月18日(木)

患者もつくる 医療の未来

2014年4月25日

 筆者は、1990年、妻の出産時に子宮収縮薬を知らない間に投与され、しかも使用量やその後の監視もガイドラインを大きく逸脱していたために、子どもは重度の脳性麻痺になりその後死亡しました。事故が起こった大阪府の枚方市民病院では、当時、全員に自然分娩を大切にすると言いながら、全員に知らない間に子宮収縮薬(陣痛促進剤)を使っていて事故が多発していたことが裁判等で明らかになりました。

 長年にわたる裁判が大阪高裁で勝訴確定した直後の、ちょうど10年目の命日に、私たち夫婦は、被告だった枚方市民病院の職員研修で話をすることになりました。その際、当時、『アメリカ医療の光と影』という本がベストセラーになっていたハーバード大学の医師だった李啓充氏が、下記のようなコメントを寄せてくれました。

 『日本における医療過誤の特徴の一つは、「過誤の質が、あまりにお粗末である」ということにあります。昨年末、米国科学アカデミーが、「To Err is Human(過ちは人の常)」という報告書を出し、その中で、米国では毎年4万4000~9万8000人の患者が医療過誤が原因で亡くなっていると指摘し、話題になりました。この報告書の中で、米国科学アカデミーは、医療過誤を「治療が予定されたプラン通りに実施されなかった、あるいは、予定したプランが初めから間違っていた」と定義しています』

 『ちなみに、インフォームド・コンセントは「医療者が患者と共同の治療目的を設定して、その目的を達成するために治療プランを作成するプロセス」と定義されますので、米国科学アカデミーの医療過誤の定義は、「インフォームド・コンセントで患者と取り決めたことが守られなかった、あるいは、誤った情報をもとにインフォームド・コンセントが作成された」と置き換えることができます。しかし、日本における医療過誤は、「医療の側がインフォームド・コンセントのプロセスを端から無視している」ケースが目立ち、米国科学アカデミーの定義からすると「医療過誤」の範疇には入れてもらえません。インフォームド・コンセントという現代医療の根幹に関わるルールを無視するようなケースは、「過誤(善意が前提となった行為の誤り)」として取り扱うべきではなく、「悪意をもってなされた犯罪」として取り扱うべきだからです』

 『伝え聞きます枚方市民病院のケースも、「過誤」というよりは「犯罪」の範疇に属するもののように思います。「リスクマネージメント」とか「医療の質の管理」とか、テクニカルな努力で医療過誤を減らそうという努力も勿論大切ですが、それ以前の問題として、医療の側がインフォームド・コンセントのルールを守ることで、日本の「医療過誤」から「悪意をもってなされた犯罪」の部分を取り去ることが肝要かと思います』

安全なお産のために、
妊婦や家族が持っておくべきもの

 そのような理由から、産科医療補償制度の再発防止委員会は、3つの文書をホームページに公表し、全国の医療機関にも発送しました。


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