ロシアのクリミア編入は、19世紀の国際政治に戻った、第二次世界大戦以後初の非合法な領土獲得だとされ、国際社会に大きな衝撃をもたらした。しかし、一時でも「未承認国家」化することで、主権国家と主権国家の大人の対話を演出する今回の手法は、今後の国際政治においても使われていく可能性は否定できまい。
東部の混乱の行方は……
そしてウクライナ情勢は危機の第三段階を迎える。ウクライナ東部の主要都市で武装した親ロシア勢力が行政施設などを占拠しはじめたのである。一部の都市では「共和国」の創設までもが宣言されており、暫定政権を批判すると共に、連邦化を求めている。暫定政権と欧米はロシア軍の特殊部隊が主導し、また特攻や占拠をする人員を、賃金を支払って雇っているとし、ロシアに対する批判を強めた。その根拠としてはクリミアに展開していた武装派と同じスタイルの武装派がいる、武装占拠の仕方が極めてプロ的、などの情報が報じられているが、ロシアは一貫して関与を否定している状況だ。
4月14日午後3時(日本時間)は、暫定政権が定めた武力的に親ロシア派を排除する「対テロ作戦」を始めるタイムリミットだったが、親ロシア派はそのまま占拠を続けたため、作戦が執行され、死傷者の数も増えていった。
4月17日に行なわれたウクライナ、ロシア、EU、米国による四者会談では、東部の安定を回復する方向で協力ということで妥結したが、情勢は依然として緊迫しており、欧米諸国は、ロシアの非協力的姿勢を批判すると共に、制裁のレベルを更に強化するとして警告してきたが、4月28日にはEUが対露制裁の拡大で合意し、同日に米国も追加制裁を発表した。そして、今後も更なる制裁強化がなされる可能性も大いに残されている。ロシアがクリミア編入という、最近の国際政治ではあり得ない19世紀的なアクションをとったにもかかわらず、それに対する欧米の制裁はかなり軽微であったといえる一方、ウクライナ東部については欧米がロシアに対して強硬な姿勢を貫いていることを考えると、欧米諸国にとってはクリミア問題よりも、東部の混乱がより深刻に受け止められていると言えそうだ。
なお、東部の問題については、最終的には、ロシアが主張するウクライナの連邦制化による解決に落ち着く可能性が最も高いと思われるが、ウクライナ各州の権限レベルを巡ってはかなり緊迫した議論が繰り広げられるはずだ。ロシアは各州が独自の外交権を持つことを主張しており、それにより東部への直接的な影響力を確保しようとしていると思われる。
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