オバマ政権第一期目を境にクリントン国務長官やキャンベル東アジア太平洋担当国務次官補といった、米国のアジア太平洋戦略的リバランスの『顔』がいなくなってしまったと囁かれ始めてから1年以上が経過した。昨年は、連邦予算を巡る議会との交渉の膠着という「お家の事情」でAPEC首脳会談出席を直前になってキャンセルせざるを得なくなり、「第二期オバマ政権は、アジア太平洋への戦略的リバランスを真面目にやる気があるのか」と国内外で議論が起こった。その意味で、北東アジア2カ国、東南アジア2カ国と、訪問先のバランスもよい今回の歴訪は、第二期オバマ政権が描く「アジア太平洋への戦略的リバランス」のビジョンを示す格好の機会だったのだ。
しかし、ふたを開けてみると、オバマ大統領は訪問した4カ国すべてで、米国と訪問先の国が抱える2国間上の懸案への対応に終始した。韓国でも、マレーシアでも、フィリピンでも、訪日の際に安倍政権に見せた配慮と同じように、それぞれの国が抱える「お国の事情」への配慮を見せている。つまり、今回のオバマ大統領によるアジア歴訪からは、大きなビジョンでリーダーシップを発揮することが難しくなり、今、そこにある課題に堅実に対応することで次に繋げていくしかない状況の米外交の限界が垣間見えてくるのである。
今まで以上に求められる責任分担
「21世紀型グアム・ドクトリン」
ということは、日本は尖閣諸島問題について「満額回答」を引き出した、と喜んでいる場合ではないことになる。そもそも、オバマ大統領自身も共同記者会見の席上で言及しているように、オバマ大統領が述べた見解は、米国歴代の政権の公式見解で、特に新しい内容のものではない。大統領より一足先に3月にアジア歴訪の最初に日本を訪問したヘーゲル国防長官も、まったく同じ発言をしている。「米国大統領が公の場で言ったことに意味がある」という議論もあるとは思うが、このことだけをことさらに取りあげて「米国は一歩踏み込んで日本の側についた」と考えるべきではない。むしろ、オバマ大統領による発言は、中国に対するメッセージ効果を狙ったものだという見方もできる。
もちろん、米国との関係は日本外交の要諦だ。厳しい状態に置かれているとはいえ、オバマ大統領が2016年まで大統領の職にあり続けることは変わりない。その意味で、今回の訪日で、昨年12月の安倍総理による靖国神社参拝以降、ギクシャクした雰囲気が漂っていた日米間の雰囲気が大幅に改善されたことは、訪日の重要な成果であることに変わりはない。
しかし、今年11月に中間選挙を控え、次の大統領選挙が2016年に迫る中、米国の内向き傾向が進み、オバマ政権は余裕を失っていくだろう。その中でアジア太平洋地域に対しては、「戦略的リバランス」という名の外交上のコミットメントを強調しつつも、同盟国・友好国にも今まで以上の責任分担を求める、「21世紀型グアム・ドクトリン」的側面がさらに強く出てくることが予想される。日本の主体的判断が試される時期がしばらく続くことになるのではないだろうか。
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