米国内の関心はウクライナ情勢
しかし、米国では、訪日の部分だけでなくオバマ大統領のアジア訪問自体が、それほど高い関心を集めていなかった。安倍総理との共同記者会見を含め、訪問中にオバマ大統領が行った記者会見で米国から同行した記者団からは必ずウクライナ情勢に関する質問が出たことに象徴されるように、アジア訪問期間中も、外交ニュースの大半はウクライナ情勢に紙面が割かれていた。アジア訪問に関心が向けられるときは、日米でTPPへの日本参加をめぐる合意が成立しなかったことや、3つ目の訪問先のマレーシアで、反政府勢力のリーダーであるアンワール氏にオバマ大統領が面会しないこと、などオバマ大統領の訪問で「達成されなかったこと」に焦点があたった報道が主流を占めた。唯一の例外は、最終訪問地のフィリピンで、米軍のローテーション配備を含む10年間の安全保障協定が結ばれたことぐらいだ。
これは今のオバマ政権が置かれている状況をよく反映している。現在のオバマ政権は、国内的には中間選挙に向け非常に厳しい戦いを強いられることが予想されている。アジア訪問直後の4月29日に発表されたワシントン・ポスト紙とABCニュースの共同世論調査によれば、オバマ大統領の支持率は、政権発足後最低の41%を記録した。TPPの早期妥結に欠かせない通商促進権限(Trade Promotion Authority, TPA)(米国が他国と交渉した通商に関する条約を批准する段階で米上院が修正条項や留保を付けることを認めない権限。「ファスト・トラック権限」とも呼ばれる)が中間選挙前に議会で成立する確率もほぼ皆無だ。
外交問題でも、昨年のシリア情勢への対応に始まり、中国による東シナ海上空の防空識別圏設定、さらに今年になってからは3月に発生したロシアの武力によるクリミア併合以降続くウクライナ情勢の緊迫、と米国の外交力が落ちていることを印象付ける事案が続いている。つまり、内政でも外交でも、手詰まり感が続いているのが今のオバマ政権なのだ。
このような状態では、自ら何か大きな政策構想をぶち上げて、その実現に向かって進む、というよりも、個別の事案にきちんと応対していくことで失点や自殺点を出さないようにする、いわゆる「受け身」の対応になりがちだ。
実は、今回のアジア訪問は、オバマ大統領にとっては外交政策で後手の対応が続いているというイメージを覆す絶好のチャンスだった。オバマ大統領が「アジア太平洋地域への米国の戦略的リバランス(再調整)」について、アジア太平洋地域を訪問中に自分の言葉で語ったのは2011年11月のオーストラリア訪問が最後だ。つまり、政権二期目に入ってから、オバマ大統領が日本を含めたアジア太平洋地域諸国に対して「第二期オバマ政権にとってはアジア太平洋への戦略的リバランスとは何ぞや」を大統領からのメッセージとしては、未だに発することができていないのである。