初めて二重国籍を許可
さらにドイツ政府は、外国人が長期間ドイツに住みたいと思うように、様々なインセンティブも用意した。連邦参議院は、24年2月2日に国籍法の改正案を可決した。
これまでEU域外からの外国人は、ドイツの滞在許可を取得してから8年経たないと、ドイツ国籍を取得できなかった。ショルツ政権は今回の法改正により、この期間を5年間に短縮した。連邦統計局によると、24年には29万1955人の外国人が、ドイツに帰化した。その数は前年比で46%増えた。
外国人の子どものドイツ国籍取得も容易になる。ドイツに住む外国人の夫婦の内、夫か妻が5年間ドイツに滞在し、無期限の滞在許可を持っている場合、子どもは自動的にドイツの国籍を取得できる。
注目されるのは、ドイツ政府が長年の伝統と訣別し、今回初めて二重国籍を認めたことだ。これまでドイツ政府は日本と同じく、原則としてドイツとEU域外の外国の国籍を同時に持つことを認めなかった。ドイツの国籍を取るには、出身国の国籍を捨てなくてはならなかった。
だが今回の法改正により、EU域外からの外国人がドイツ国籍を取っても、出身国の国籍を放棄する必要はなくなった。ドイツ政府は長年、二重国籍について消極的だった。その国が方針をがらりと変えたのは、「移民を増やさないと国がもたない」という危機感の表れだ。
チャンス滞在権で就業機会を与える
この国で労働力が不足しているのは、高度な知識や技能を持つプロフェッショナルだけではない。公共交通機関、スーパーマーケットからクリーニング店、郵便局、病院、パン屋まで、働き手を募集している。
特に深刻なのが、医療・介護部門だ。あるコンサルタント企業が22年に公表した報告書によると、35年に医療・介護分野で不足する勤労者の数は、約180万人に達する見込み。
このためドイツ政府は23年12月31日から、移民法の中に、「チャンス滞在権(Chancenaufenthaltsrecht)」という新しい滞在資格を導入した。この国には、難民として認定されなかったが、健康上・人道上の理由などから、国外追放が延期され、仮滞在を許されている外国人がいる。ドゥルドゥング(Duldung)と呼ばれるこの制度に基づいてドイツに留まっている外国人の数は、22年の時点で約18万人にのぼる。これだけの労働力が働かないでいるのは、もったいない。
そこでショルツ政権は、22年10月30日の時点で、最低5年間ドイツに居住し、反ユダヤ主義などの過激思想を持たず、法律に違反していない外国人に対して、18カ月間の滞在権を与えることにした。彼らがこの期間にドイツ語を学び、職業に就いて自分で生活の糧を得られるようになれば、長期的な滞在許可を取得できる。
つまりドイツ政府は、合法的な移民を増やそうとしている。極右政党ドイツのための選択肢(AfD)すら、マニフェストの中で外国からの専門職業人の受け入れの重要性を指摘している。
