2024年11月26日(火)

Wedge REPORT

2008年12月20日

自給率とともに「他給率」のアップも必要

 日本がえり好みをしている間に、日本の注文を受けてくれる農家は、確実に減っている。静かな危機が進んでいるのに、食料危機への世論の関心は、秋以降に金融危機が深刻化したことで、急速に冷めつつある。

 「08年前半の穀物相場の上昇は、米国の低金利とドル安で穀物市場に投機資金が流れ込んで起きた。世界的な金融危機で投機資金が市場から消えた秋以降、先物価格が下落に転じたのは当然だ。最初から、食料危機などなかったのだ」

 最近は、こんな分析も目にする。相場動向の解説としては正しい。だが、元々シカゴの穀物先物市場に流入していた投機資金はピーク時でも600億ドルに過ぎず、米国の株式市場の時価総額16兆ドルと比べると非常に小さい。再び投機資金が流入すれば、すぐにでも相場はまた高騰に転じるだろう。

 農水省は10月から、「安心を、未来へつなぐ食料自給率1%アップ運動」を始めている。地産地消やコメ消費のPRなどで、国産食料品の良さを再認識してもらう狙いだ。

 内閣府の世論調査でも、国民の9割以上が将来の食料輸入に不安を持ち、食料自給率を高めるべきだと答えている。

 だが、自給率を1%高めるには37万トンのコメを余計に消費し、肉なら国産飼料の生産を370万トンも増やさねばならない。苦労して達成しても、食料輸入はいくらも減らない。未来の食を途絶させないためには、「他給率」のアップも同時に考えなければならない時代が来ているのではないか。

 そもそも、サウジアラビアのような他給率までにらんだ食料戦略を、誰が立案するのか。日本では名前からしてその任にありそうな農水省の総合食料局は、自らまいた事故米問題で忙しく、目先の選挙対策に汲々としている与党や首相官邸にも、半世紀先までにらんだ戦略は描けそうにない。農政改革については経済財政諮問会議がようやく議論を始めたが、農政では素人が集まる諮問会議に期待はできまい。

 こうしている間にも、世界の農地は次々に売約済になっていく。これで「安心を、未来へつなぐ」ことができるのだろうか。

>>次ページのコラムでは、 ブラジルでの農業生産に踏み出した三井物産への取材から、商社の抱える事情に迫ります


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