もともと食料自給率が低かった他の産油国は、サウジの政策転換に強い危機感を抱いた。このままでは海外の農地をサウジに奪われ、食料確保が怪しくなる―。各国は、「オイル(油)をソイル(土)に」を合言葉に、サウジに追随して農地の買い漁りに走った。
その動きをまとめたのが別表だ。各種の報道で明らかになっただけでも、世界中でゴールド・ラッシュならぬソイル・ラッシュが始まっていることがお分かりだろう。
※クリックすると、中東各国の農地争奪戦の現状をまとめた一覧表が開きます
土壌が豊かで未開発地域が残るアフリカのナイル川やコンゴ川流域では、産油国同士の争奪戦で二束三文だった農地の価格が上昇しているが、07年来の原油高で、中東産油国のオイルマネーの総額は、それ以前の倍の2兆ドルにものぼる。ソイル・ラッシュは当分止まないだろう。
中国や欧州に広がる農地争奪戦 一方日本は
こうした状況をみて、世界最大の小麦生産国、中国までもが海外の農地獲得に動き出した。巨額の外貨準備を使ってブラジルなどで鉄道や道路などのインフラ整備に協力し、見返りに周辺の農地開発に参入しようとしている。
中国は世界最大の小麦消費国でもある。これまでは人民公社の廃止などの農業近代化で、急増する消費を何とか賄ってきたが、農業取水量の増加で、北京北部では地下水の水位が毎年1~2メートルも下がり、黄河では水が干上がる「断流」が頻発している。中国政府はなお穀物自給率95%の目標を掲げているが、国内だけでは13億人の胃袋は満たせないと判断し、新たな農地と水を海外に求め出したのだ。
欧州各国も、争奪戦を座視しているわけではない。世界有数の穀倉地帯であるウクライナでは、英国やカナダなどの企業が欧米の投資家から集めた資金を使って10万ヘクタール単位で農地を借り受け、大規模に大豆や麦を栽培している。人工衛星で作柄を監視し、傭兵まで配置して農地と水を囲い込む。外資による事実上の農地支配が進んでいるのだ。
国連食糧農業機関(FAO)は、「途上国の農業振興につながる」として、これまでは国境を越えた農業投資を奨励してきた。最近ではそのFAOでさえ、「水や農地には国の主権がある。それを丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」(ジャック・デュウフ事務局長)と、農地争奪戦を批判し始めた。