景気上昇時ならば企業も余裕があり、その中で展開する海外進出、新規事業開発でしたが、今はそのような状況ではありません。人は増やさず、生産性、効率性が求められるような背水の陣ともいえる中で、ギリギリのサポートしかなく、能力、心の準備も整っていない。これで最前線へ飛び込むのですから、どこかで無理が生じてしまう。セーフティネットがないのに綱渡りをさせられるのでは、メンタル不調者が出てしまうのも必然と思えてきます。時代の変化に企業が対応しきれていない構造的な問題だと感じています。
レジリエンスは落ち込むことが前提になる
―― 企業はどのような対応をしていけばいいのですか。産業医によるカウンセリングなどが受けられる企業は多いと思いますが、これだけでは不十分でしょうか。
舞田:メンタル不調者への対応は多くの企業で実施されています。それでも不調者は減らないし、広がりをみせている。社員がうつ病を発症し、休職、復職となると本人も会社も負担が大きいし、最前線で働く社員であれば戦力ダウンは企業の命運にも関わってしまう。うつ予防とケアをしているから安心というわけではなく、さらに予防の充実が必要だと思います。簡単には心が折れない、何かあっても回復できる力を養うなどレジリエンスを人財育成のプログラムに組み入れていくことが、グローバル化にさらされる企業にとって、自己防衛であり競争力の強化につながるはずです。
―― レジリエンスとは、具体的にどのような概念ですか。
舞田:平たく言えば精神力です。ただ、根性とか曖昧なことではなく学術的な要素が加わります。習得することで鉄の心を持つようなことではありません。相手を跳ね返すのではなく、むしろ壁にぶつかった時にへこんでしまうことを前提にするのです。与えられたミッションを遂行する途中で、何らかの形でぶつかる相手は巨大です。これには勝てるわけがない。だから一度はへこんでしまい落ち込むのですが、そのまま抑うつ状態のようになるのではなく、回復していく力といえます。竹は折れにくく曲げてもしなるだけで元に戻ります。このイメージでとらえると分かりやすい。職場で落ち込む要因は多様ですが、回復する力をもつことで折れない心を自身でつくりあげていくことができます。