アメリカは兵士らがヘリコプターから石油タンカーに降りる映像を公開した
アメリカのドナルド・トランプ大統領は10日、軍がヴェネズエラ沖で石油タンカーを拿捕(だほ)したと発表した。ヴェネズエラのニコラス・マドゥロ政権への圧力を大きく強めた格好。
トランプ氏はホワイトハウスで記者団に向かい、「ヴェネズエラ沿岸でタンカーを拿捕した。大型タンカーで、とても大きく、これまで拿捕した中で最大だ」と述べた。
パム・ボンディ司法長官は、拿捕の様子の映像を公開した。また、船について、「ヴェネズエラとイランから制裁対象の石油を輸送するのに使われた原油タンカー」だと説明した。
ヴェネズエラ政府は、アメリカの行動を「国際的な海賊行為」と非難した。これよりも先、マドゥロ大統領は、ヴェネズエラが「石油植民地」になることは決してないと宣言した。
トランプ政権はヴェネズエラを、アメリカに麻薬を流入させていると非難している。ここ数カ月は、マドゥロ氏を孤立させる取り組みを強化している。
世界最大級の石油埋蔵量を誇るヴェネズエラは、同国の資源をアメリカが奪おうとしていると非難している。
原油取引の指標となるブレント原油価格は10日、タンカー拿捕のニュースを受けて短期的な供給への懸念が高まったことから、小幅に上昇した。アナリストらは、今回の事態が荷主を脅かし、ヴェネズエラの石油輸出を一段と妨げる可能性があると警告している。
3年前に米制裁対象とされた船か
ボンディ司法長官は、連邦捜査局(FBI)、国防総省、国土安全保障省、沿岸警備隊が協力し、拿捕したと説明した。
Xへの投稿でボンディ氏は、「この石油タンカーは、外国のテロ組織を支援する不正な石油輸送ネットワークに関与していたため、複数年にわたり、アメリカの制裁対象となってきた」と書いた。
ボンディ氏が公開した映像では、大型船の上空を軍用ヘリコプターがホバリングし、ロープを使って部隊員らが甲板に降りている。そして、制服姿の人たちが銃を構えて船内を移動している。
軍高官がBBCがアメリカで提携するCBSに語ったところでは、作戦に使われたヘリコプターは、先月カリブ海に派遣された世界最大の米空母ジェラルド・フォードから発進した。
作戦には、ヘリコプター2機、沿岸警備隊10人、海兵隊10人、特殊部隊が参加したという。
トランプ氏は、タンカーの石油をどうするのかと記者団から問われると、「私たちが保持すると思う」と答えた。
海事リスク会社「ヴァンガード・テック」は、この船を「スキッパー」号と特定。長い間、偽の位置情報を発信していたとみられるとした。
CBSによると、スキッパーは2022年、レバノン拠点のイスラム教シーア派組織ヒズボラとイランのイスラム革命防衛隊のコッズ部隊に収入をもたらす石油密輸に関わったとして、米財務省の制裁対象とされた。
BBC ヴェリファイ(検証チーム)は船舶追跡サイト「マリーン・トラフィック」で、2日前の最終更新時に、このタンカーがガイアナの国旗を掲げて航行しているとされていたことを確認した。ガイアナ海事管理当局は10日夜の声明で、スキッパーは「ガイアナで登録されておらず、ガイアナ国旗を偽って掲げている」とした。
ヴェネズエラ政府は、今回の拿捕を「重大な国際犯罪」と非難する声明を発表。ディオスダド・カベロ内相は、アメリカを「人殺し、盗っ人、海賊」と呼んだ。
アメリカはここ数日、ヴェネズエラの北に位置するカリブ海で、軍事的な存在を強めている。
こうした動きは、近く何らかの軍事行動があるのではないかとの臆測を呼んでいる。
アメリカはこの海域で9月以降、麻薬密輸船だと判断した船を、少なくとも22回攻撃。少なくとも80人が死亡している。
(英語記事 US seizes oil tanker off the coast of Venezuela, Trump says)
