2025年12月17日(水)

BBC News

2025年12月17日

エプスティーン元被告の渡英は、これまで知られていたよりも数十回多かったことがBBCの調査でわかった

チ・チ・イズンドゥ、オリヴィア・デイヴィーズ、ウィル・ダールグリーン(BBCニュース調査報道チーム)

性犯罪で服役し、その後も性的人身取引の罪に問われた米資産家ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)に関係した航空機が、イギリスの空港で90回近く発着を繰り返し、そのうち何回かは、元被告に虐待されたというイギリス人女性が乗っていたことが、BBCの調査でわかった。

BBCは、人身取引の被害者とされるイギリス人女性3人が、エプスティーン元被告のイギリス出入国のフライト記録や、その他の文書に出てくることを確認した。

エプスティーン元被告の被害者数百人の代理人を務める米弁護士らは、元被告の活動に関して「英当局の本格捜査」が一度も行われていないのは「衝撃的だ」とBBCに話した。

弁護士の1人は、イギリスも元被告の活動の「中心地」の一つだったとした。

これらイギリス人被害者の1人の証言が、元被告の共犯者ギレイン・マックスウェル受刑者の2021年の有罪評決(アメリカで子どもを性的人身取引した罪)へとつながった。ただ、この被害者はイギリスの警察から何の接触もされていないと、米フロリダ拠点のブラッド・エドワーズ弁護士はBBCに話した。

裁判で「ケイト」と呼ばれたこの被害女性は、1999~2006年に、元被告が費用を負担したイギリス発着のフライトに10回以上搭乗したと記録されている。

BBCは文書に出てくる他の女性たちについて、個人特定のリスクがあることから詳細は記さない。

アメリカのシグリッド・マコーリー弁護士は、「それらのフライトについてや、彼がどこにいたのか、そのとき誰と会っていたのか、航空機内で誰と一緒だったのかについて(英当局は)詳しく調べていない」と述べた。

「ジェフリー・エプスティーン透明化法」に基づき、元被告に関する米政府保有のすべてのファイルが、今月19日までに公開されることになっている。

今回の飛行記録は、ここ1年間に公開された、裁判や元被告の財産に関する大量の文書の中に含まれていた。そこには、英王室メンバーの邸宅への訪問など、元被告のイギリス滞在について多くのことが記されていた。

BBCは、元被告のイギリスでの活動を明らかにしようと取材しており、その一環として、今回の文書を検証した。

その結果、次のことがわかった。

不完全な飛行記録および乗客名簿には、1990年代はじめから2018年の間にイギリスの空港を発着した、エプスティーン元被告に関係するフライトが87便記録されていた。これまで知られていたよりも数十便多い

イギリス出入国の飛行記録には、乗客に身元不明の「女性」という記載があった

イギリス発着のフライトのうち15便は、元被告が未成年者に性行為を勧めたとして有罪とされた2008年以降のもので、入国管理当局から問題視されるべきだった

エプスティーン元被告は2019年、未成年者に対する性的人身取引罪の裁判が始まる前に拘置施設で死亡した。それでも、英当局が捜査することで、イギリスを拠点とする人々が元被告の犯罪を手助けしたのか明らかにできるかもしれないと、法律の専門家らはBBCに話している。

BBCは2カ月前、ロンドン警視庁に、人身取引の被害者とみられる人たちが乗ったイギリス発着便に関する公開情報を送った。警視庁はかつて、元被告のイギリスでの活動を調べている。

BBCはその後、再び警視庁に、イギリス内外でイギリス人が元被告によって人身取引された可能性を示す証拠について、捜査するのか尋ねる質問書を送った。

警視庁はこれに返答せず、13日に声明を発表。エプスティーン元被告とマックスウェル受刑者のイギリスにおける人身取引活動について「捜査再開を支持するような新たな証拠は受け取っていない」とした。

そして、アメリカで公開されたものも含め「新たな関連情報がもたらされた場合は、それを審査する」とした。

2008年からエプスティーン元被告の被害者らの代理人になっているアメリカのブラッド・エドワーズ弁護士は、自分の依頼人の中に、「ジェフリー・エプスティーンや他の人々にイギリスで虐待された」イギリス人女性が「3、4人」いると話した。

それ以外にも、イギリスでスカウトされてアメリカへと売られ、そこで虐待された人もいるという。

エドワーズ弁護士はまた、元被告らによって虐待のために人身取引されてイギリスに渡ったという他国の女性らの代理人も務めていると話した。

BBCの調べでは、エプスティーン元被告は渡英する際や人身取引の被害者とされる人々らを移動させる際に、民間航空便やチャーター便、さらに自家用機を使っていた。

自家用ジェット機を使ったフライトは50回を超えた。ほとんどがロンドンのルートン空港発着で、バーミンガム国際空港を使ったフライトも数回あった。ノーフォーク西部のマーハム空軍基地とエディンバラ空港での発着も1回ずつあった。

元被告が利用または料金を負担した民間航空便やチャーター便の限定的な記録からは、これらの他にも数十回の関連フライトがあったことがわかる。主にロンドン・ヒースロー空港を経由するものだったが、スタンステッド空港やガトウィック空港を経由したものもあった。

元被告の自家用機の飛行記録には、イギリスに旅行した時のものも含め、搭乗していた女性について氏名を記入せず「女性」とだけしてある記載がいくつかある。

「人身取引の被害者と一緒に出入りしやすいと感じる空港を、彼は選んでいる」とマコーリー弁護士は言った。

BBCが調べた今回の文書の対象期間においては、自家用機は、民間航空機のように出発前に乗客の詳細を英当局に提供する必要はなかった。内務省は、それらの詳細は「同じ集中的な記録管理の対象ではない」とBBCに説明した。

その抜け穴がふさがれたのは昨年4月になってからだった。

マックスウェル受刑者に不利な証言をしたイギリス人女性「ケイト」さんは、BBCが調査した記録に出てくる民間航空便のいくつかに搭乗していた。彼女は法廷で、17歳の時にマックスウェル受刑者と親しくなり、エプスティーン元被告に紹介されたと証言した。また、元被告がマックスウェル受刑者のロンドンの自宅で、ケイトさんを性的に虐待したと述べた。

2021年にあったこの裁判では、ケイトさんはマックスウェル受刑者から女子生徒の服を渡され、着るよう言われたと証言。また、エプスティーン元被告のために女の子を探すよう受刑者から頼まれたと述べた。さらに、イギリスを出入りした数十回のフライトで乗客になっていたと説明。米領ヴァージン諸島にある元被告所有の島やニューヨーク州、フロリダ州パームビーチにも航空機で移動させられたと法廷で語った。それらの場所での虐待は、ケイトさんが30代になるまで続いたという。

ケイトさんの代理人のエドワーズ弁護士がBBCニュースに説明したところでは、ケイトさんはこの証言をした後も、英当局から何を経験したのか「一度も聞かれたことはない」といい、「電話1本すらなかった」という。

もしイギリスの警察が元被告の活動や協力者について捜査に乗り出すなら、ケイトさんは喜んで協力するだろうと、エドワーズ弁護士は話した。

人身取引に詳しい米ミシガン大学法科大学院のブリジット・カー教授は、人身取引には通常、多くの人々の協力が必要だと述べた。

「悪い人が1人ということは決してない」、「会計士、弁護士、銀行家、あるいは銀行家全員、そして事態の継続を暗黙のうちに、時にははっきりと認めていたすべての人々のことは考慮されない」。

エプスティーン元被告が、未成年者に性行為を勧めたとして有罪とされた2008年以降も、なぜ自由にイギリスに渡航できたのかも疑問だ。元被告は有罪確定を受け、フロリダ、ニューヨーク、米領ヴァージン諸島で性犯罪者として登録されていた。

元被告は13カ月服役し、2009年に出所した。関連文書によると、元被告は自宅から出ることを禁じられた保護観察となり、それを終えてわずか2カ月後の2010年9月、ヴァージン・アトランティック航空便でアメリカからロンドン・ヒースロー空港に向かった。

当時の英内務省の規則では、禁錮12カ月以上の刑に処された外国人は、ほとんどの場合、入国を認められないはずだった。

しかし、「ILEXロー・グループ」のマネージング・パートナーで移民法に詳しいミグレナ・イリエヴァ弁護士によると、米国民は通常、イギリスでの短期滞在にはビザ(査証)を必要とせず、犯罪歴を尋ねられるような申請手続きもないという。

「入国者に対応する入国審査官の裁量にかなりの部分が任されていた」と同弁護士は話した。

内務省は取材に対し、10年以上前の入国やビザに関する記録は保有していないと説明。「個々のケースについて日常的にコメントはしないというのが、長年にわたる政府の方針だ」と付け加えた。

米当局によると、エプスティーン元被告は1980年代、自分の顔写真と偽名でオーストリアで発行されたパスポートを使って、イギリス、フランス、スペイン、サウジアラビアに入国していた。

ABCニュースは以前、元被告が1985年にパスポートの再発行を申請した際に、居住地をロンドンにしていたと報じている。

警視庁は13日に発表した声明で、エプスティーン元被告とマックスウェル受刑者によって性的搾取のために人身取引されたというヴァージニア・ジュフリーさん(故人)の2015年の訴えについて調べた際、「他の数人の潜在的被害者」と接触したとした。

ジュフリーさんは、元英王子アンドリュー・マウントバッテン=ウィンザーさんと3回にわたってセックスを強要されたとも述べていた。うち1回は、17歳だった2001年にロンドンのマックスウェル受刑者の自宅でだったとしていた。元王子は一貫してこれらの疑惑を否定している。

警視庁は、ジュフリーさんの訴えについて調べたが、「イギリス拠点の国民に対する犯罪行為の疑いには行き着かなかった」と説明。「これらの訴えを前に進めるのは、他の国際的な当局が最適だ」と結論づけた。

この決定は2019年8月に見直され、2021年と2022年にも再度見直されたが、結果は同じだったという。

マコーリー弁護士は、警視庁が被害者に対し、「警察に通報しても、それが有力者であれば(中略)捜査されることはない」というメッセージを送るものだとしている。

(英語記事 Epstein's UK flights had alleged British abuse victims on board - BBC investigation

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cy951j9gqv8o


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