中国軍は29日、台湾海峡での軍事演習の実施を発表し、軍艦の様子をとらえた動画を公開した。画像は、海上で砲撃する軍艦の動画の静止画
コー・ユー BBC記者
中国軍は29日、台湾周辺で軍事演習を開始した。台湾島の主要地域の占領や封鎖を想定したもので、「分離主義勢力」に対する警告だとしている。
同軍によると、コードネーム「正義使命2025」と名付けられた今回の演習には実弾射撃訓練が含まれ、陸海空・ロケット軍が投入された。
台湾をめぐっては17日、アメリカが台湾への110億ドル(約1兆7000億円)規模の武器売却パッケージを発表。この大型支援に中国政府は強く抗議し、米防衛企業に制裁を科した。
台湾が今年に入り、防衛力強化を進めていることも、台湾の自治権を主張する中国政府の怒りを買っている。
台湾総統府は、今回の中国の軍事演習を国際規範への挑戦だと批判している。
台湾の国防部(国防省)は、29日に台湾周辺で中国軍機89機、軍艦や海警局の船舶28隻を探知したと発表した。
国防部はこれとは別に、状況を監視するため台湾のミサイルシステムや部隊を展開していると説明。台湾防衛と「市民を守る」ために「高度警戒態勢」を敷いていると付け加えた。
台湾海峡を管轄する中国人民解放軍の東部戦区は、今回の軍事演習は「正義の盾」だと、中国のソーシャルメディア「微博(ウェイボ)」に投稿した。
「独立を企てる者は、この盾に遭遇した瞬間に根絶されるだろう!」と、投稿には書かれている。
今回の演習の一部はすでに始まっているが、中国軍は30日午前8時から午後6時にかけて大規模演習を実施するとしている。
中国外務省はこの演習について、「武力による独立を企てる分離主義勢力への厳しい懲罰」であり、「台湾を利用して中国を封じ込め」ようとする「外部勢力」への警告だとした。
同省の林剣報道官は29日の定例会見で、「中国の統一を妨害しようとする悪意のあるいかなる企ても、失敗に終わる運命にある」と述べた。
中国は長年、台湾との「平和的統一」を掲げてきた。しかし同時に、台湾の「分離」を阻止するために「非平和的手段」を用いることを定める法律もある。
中国政府は、台湾の頼清徳総統が「台湾独立」を追求していると非難している。一方で頼氏は、台湾はすでに主権国家であるため、正式に独立を宣言する必要はないと主張している。
頼氏は28日、台湾は中国が侵略の「基準を決して満たせないよう、難易度を上げ続ける必要がある」と、台湾のテレビ局のインタビューで述べた。
また、現政権は「現状維持を保つ」よう取り組んでおり、中国を挑発するつもりはないと述べた。ただし、平和の実現は「真の力」次第だと付け加えた。
世論調査では一貫して、大半の台湾人が「現状維持」を望んでいることが示されている。つまり、中国との統一も、正式な独立宣言も望んでいないことを意味する。
台湾の交通部は、国際線と国内線のフライトについて、演習が続く間は危険区域を迂回(うかい)して運行することになると説明。10万人以上の乗客が影響を受けるという。
中国は2022年以降、台湾海峡での軍事演習を強化している。これは主に、2022年のナンシー・ペロシ米下院議長(当時)の台湾訪問や、2024年の頼氏の台湾総統就任など、中国が脅威とみなす出来事への対応として見られる動きだ。
中国軍は今年4月にも、台湾海峡で実弾射撃を伴う演習を行った。同軍は当時、台湾の主要な港湾やエネルギー施設への攻撃を想定した演習だと説明していた。演習と並行して、頼氏を「寄生虫」に似せて描いたイラストも公開された。
今週の演習は、10月に中国人民解放軍の東部戦区の新司令官に就任した楊志斌氏の下で初めて実施されている。
こうした中、台湾も独自に軍事演習を行っている。市民に攻撃への備えを促すとともに、中国側に防衛力を示す狙いがある。今年の「漢光」軍事演習は過去最大規模のもので、過去最長の10日間行われた。
中国との緊張が高まる中、頼氏は総統就任以来、防衛費を増額し、防衛能力を強化すると誓っている。
10月には、台湾を「敵対的脅威」から守るための防空システム「Tドーム」を構築すると発表した。ただし、中国を名指しはしなかった。
中国軍は今回の演習について、「第一列島線 の外側」での抑止も目的としているとしている。第一列島線とは、台湾、フィリピン、日本を含む島々を結ぶ台湾の安全保障上の戦略ライン。
中国は台湾をめぐり、日本とも対立を続けている。高市早苗首相が先月の国会答弁で、中国が台湾を攻撃した場合、日本の自衛隊が対応する可能性を示唆したことを受け、日中関係は、ここ数年で最も冷え込んだ。
中国は高市氏の発言に強く抗議し、日本への渡航を控えるよう自国民に警告を発した。
今月初めには日本の防衛省が、中国軍機が日本の航空機にレーダーを照射したことに抗議した。一方の中国側は、日本側が訓練中の中国部隊に「嫌がらせをした」と非難した。
(英語記事 China holds military drills around Taiwan as warning to 'separatist forces')
