欧州連合(EU)のカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)
ラウラ・ゴッツィ記者(キーウ)
欧州連合(EU)の外相にあたるカヤ・カラス外務・安全保障政策上級代表は2025年12月31日、ウクライナがロシア政府の施設を標的にしたとするロシアの主張は「意図的な目くらまし」であり、和平プロセスを妨害する試みだと非難した。
カラス氏はソーシャルメディアに、「ウクライナのインフラや民間人を無差別に攻撃してきた侵略者による根拠のない主張を、誰も受け入れるべきではない」と記書いた。これは、ウクライナがウラジーミル・プーチン大統領の公邸の一つをドローンで攻撃しようとしたという、クレムリン(ロシア大統領府)の主張を指しているとみられる。
ロシアは29日、ウクライナがロシア北西部のヴァルダイ湖畔にあるプーチン氏の公邸を標的にしたと非難。これをもって、和平交渉における立場を見直すとしている。
ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相が29日に、初めてこの「攻撃」について通信アプリ「テレグラム」で表明して以来、ロシアの国営メディアや政治家は、疑惑の攻撃についてますます挑発的な論調で議論している。
ロシア議会のアンドレイ・カルタポロフ国防委員長は「この攻撃はロシアの中心部への一撃だ」、「(ウクライナが)やったことの後では、許しはあり得ない」と語った。
クレムリンは当初、疑惑の攻撃の証拠を共有する意味はないと述べていたが、ロシア軍は31日、ウクライナが攻撃しようとした証拠だとするものを公開した。
それには、ドローンがウクライナのスーミおよびチェルニヒウ両州から発射されたとされる地図と、雪に覆われた森林に横たわる撃墜されたドローンの映像が含まれている。残骸の横に立つ兵士は、それがウクライナ製の「チャクルン」ドローンだと主張している。
BBCはこの映像を検証できておらず、撮影場所を特定することもできない。
破壊された長距離無人航空機(UAV)の外形は、ウクライナ製のチャクルンに似ている。しかし、映像に映っているドローンの部品は安価でオンラインで広く入手可能なため、確かにウクライナ軍が使用したものと結論することはできない。
ロシア国防省は、疑惑の攻撃の際にロケットのような音を聞いたと話す、地元住民だとする人物の映像も公開した。
しかし、ロシアの調査報道メディアは、プーチン氏の公邸周辺に住む十数人に話を聞いたところ、91機のドローンが接近したり防空システムで撃墜されたりしたことを示すような音を聞いた人はいなかったと報じた。
住民の1人は、「もしそんなことが起きていたら、街中がその話で持ちきりになっていたはずだ」と話したという。
ウクライナ外務省のヘオルヒー・ティヒー報道官は、ロシアが証拠として提示したものは「ばかばかしい」と一蹴した。「(ロシアは)話のでっち上げさえ、まともにやろうとしない」と、ティヒー氏はロイター通信に話した。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領もこの疑惑を強く否定し、アメリカ主導で進められているウクライナでの停戦合意のプロセスと結び付けた。
ゼレンスキー氏は30日、プーチン氏公邸にウクライナのドローン攻撃があったとロシア側が主張するのは、「過去1カ月の間にとても有意義な協議と、双方のチーム同士の前向きな会合があり、それが私たちとトランプ大統領との会談に至ったという事実」に関係していると語った。
そのうえで、ロシアはアメリカとウクライナの間の「前向きな勢い」を断ち切ろうとしていると、ゼレンスキー氏は述べた。
プーチン氏は疑惑のドローン攻撃について公には言及していないが、大みそかの演説では、ウクライナに駐留するロシア軍に向けて「我々は諸君と勝利を信じている」と語った。
ドナルド・トランプ米大統領の側近らは31日、ゼレンスキー氏と、イギリス、フランス、ドイツの国家安全保障担当者と共に、ウクライナでの戦争終結について協議した。
アメリカのスティーヴ・ウィトコフ特使は、協議では「安全の保証を強化し、戦争を終わらせ、再開を防ぐための効果的な衝突回避メカニズムの構築」について話し合ったと明らかにした。
ゼレンスキー氏は大みそかの演説で、「和平合意は90%が整っており、残りは10%だ」と説明。「その10%が、和平の行方、ウクライナとヨーロッパの運命を決定する」とも述べた。
一方、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、1月6日にパリで会合を予定している欧州諸国と支援各国は、「ウクライナを守り、欧州大陸に公正で持続的な平和を確保するため、具体的な約束をする」と述べた。
ここ数週間、アメリカとウクライナの代表団は緊密に協力しており、ゼレンスキー氏は、自国の要求が考慮される見通しに、慎重ながらも楽観を示している。
また1年が戦争中のまま終わり
「公邸攻撃」の話が浮上した際、ゼレンスキー氏は、これを口実にロシアはウクライナの首都キーウやウクライナ政府庁舎を攻撃するだろうと警告。キーウでは31日夜、ドローンが接近したため一時的に空襲警報が鳴ったが、被害や着弾は報告されていない。
一方で、ウクライナの複数の地域がドローン攻撃を受けた。黒海沿岸のオデーサでは大規模な攻撃があり、集合住宅が被弾し、子ども3人を含む6人が負傷した。また、気温が0度を超えない中で、17万人以上が停電に見舞われた。
オデーサは数週間にわたり継続的な攻撃を受けている。攻撃の激しさは、プーチン氏が12月初めに、黒海でロシアの「影の艦隊」のタンカーに対するドローン攻撃への報復として、ウクライナの海へのアクセスを遮断すると警告して以来、増しているようだ。
戦争が続いたまま、またしても1年が終わろうとする数時間前、キーウの多くの人々が2026年に望んだのはただ一つだった。
「私たちは、すべてが終わることを願っている。これを終わらせ、以前のように暮らしたい」と、26歳のマリヤさんは話した。
金色のドームが特徴的な聖ソフィア修道院の外で、マリヤさんはこう付け加えた。「私たちの国は、巨大な可能性がある、とても美しい国だ。この国の人間こそ私たちの力の源で、だからこそ私たちは頑張り続けることができる」。
マリヤさんが話す間、近くでは10代の若者たちがクリスマスソングを歌い、軍への寄付を集めていた。「私たちはみんな、2026年に勝利が訪れることを望んでいる。それが私たちの共通の願いだ」と、そのうちの1人は話した。
ゼレンスキー氏は、アメリカとヨーロッパの当局者の関与を得て、1月初めに和平交渉を再開し加速させたいとの意向を示している。しかし、最終的な合意にはロシアの同意が必要で、それは得られそうにない。プーチン氏の公邸をめぐる疑惑のドローン攻撃が、その距離をさらに広げた可能性がある。
では、来年は本当に平和をもたらすのか。「本当にそう願っているけれども、確信は持てない。私たちはできる限りのことをしている」と、マリヤさんは語った。
マリヤさんの隣で、クセニアさんという女性は肩をすくめ、空を見上げた。「本当に、神のみぞ知る」。
(英語記事 EU's top diplomat rejects Russian claims of Ukrainian attack on government sites)
