エコノミスト誌6月21-27日号は、混乱のイラクにあってクルドが力を増しており、クルド指導部は事態を静観しているが、状況はクルド独立に有利になってきた、と報じています。
すなわち、イラクの混乱が拡大する中、クルド自治区では通常の生活が続いており、クルドの力は増しつつある。イラク軍がクルド自治区との境の検問所を放棄し、ペシュメルガが、キルクークを含め、帰属を巡ってバグダッドと争ってきた全地域を支配下に置いた今、クルドはイラクの5分の1の領域を支配している。イラク軍もイラクのアラブ人もクルドの「強奪」を非難するが、どうにもできない。
一方、クルドの外交責任者は、自分たちはこれまでの過ちを正したのであり、国民投票によってキルクーク等の帰属を決めるとした、憲法140条の規定が事実上実現された、と言っている。
確かにクルドの評価は高まっている。バラバラになったイラク軍に対し、ペシュメルガは団結しており、クルド自治区はモスル等からの難民30万人を受け入れた。これまでも、爆弾テロに苦しむバグダッドを尻目に、エルビルには外国人ビジネスマンが出入りし、イラクの他地域から逃れてきたキリスト教徒も平和に暮らしてきた。腐敗はあるが、民主主義も他地域に比べてはるかによく機能している。
そうしたクルドをマリキは必要とするかもしれないが、クルドにはマリキを必要とする理由がない。元々バグダッドとエルビルの関係は緊密ではなかったが、今回の危機が始まっても、両者間の連絡は限られている。マリキはまだクルドに支援を要請していないが、要請されても、クルドが喜んで応じるかどうかわからない。彼らの優先課題は自治区とクルド人の防衛だからだ。
それに、1988年、フセインによって毒ガスでクルド人5000人が殺されたことへの怒りはまだ収まっていない。また、ISISに率いられたスンニ派が、今後、クルド自治区にも向かって来ると見る者もいる。
いずれにしても、立場を強めたクルドは、バグダッドに対し、(1)クルド自治区の石油輸出権および新油田を開発・管理する外国企業との契約から直接利益を得る権利の承認、(2) 連邦予算のクルド分の委譲、(3)中央政府によるペシュメルガの給与負担、を強く迫ることになろう。勿論、マリキは同意を躊躇してきたが、今や彼の立場は弱い。
キルクーク周辺の油田を支配するようになれば、クルドが扱う原油量は倍増する可能性がある。加えて、最近、独自のパイプラインも完成した。バグダッドからクルドとの取引を禁じられる恐れがなくなれば、輸出量はさらに増えるだろう。