2024年12月9日(月)

安保激変

2014年7月7日

 2013年夏以降、オバマ政権の外交政策にとっては散々な時期が続いている。そもそものつまずきは昨年夏、シリアのアサド政権が自国民に対して化学兵器を使用した疑惑が浮上したときに始まった。当初は、「化学兵器使用はレッドライン(超えてはいけない一線)」だとして、米軍による何らかの武力介入をほのめかしていたオバマ大統領は、米議会の猛反発に遭い立場を後退せざるを得ず、結果、ロシアの仲介でシリアのアサド政権と国連の間に化学兵器廃棄に向けたプログラムの設置について合意が成立し、ロシアに大きな借りを作ってしまった。

 そのロシアが今年の春には、「グレーゾーンの地上戦版」ともいえる手法でクリミアに侵攻。米国を含む国際社会の非難をものともせず、あっという間にクリミア併合宣言をしてしまった。これにより、ウクライナがロシアからの警告を無視してEUに接近、ロシアとウクライナの間の緊張が高まるにつれ、NATOの東端であるポーランドもロシアの動きに今までになく神経質になっている。

 そして先月には、オバマ大統領が自分の政権の最大のレガシーと捉えていた「戦争を終え、米軍を撤退させた」はずのイラクで地元スンニ派の部族の支援を受けた「イラン・シリアのためのイスラム国家」(ISIS)が政府に対して反旗を翻し、激しい戦闘が発生、戦闘は現在も継続している。マリキ首相は、イスラム教のスンニ、シーア両派やクルド人などすべての勢力を政権に参加させ、国家の統一維持を最優先にする挙国一致内閣の設置を拒否、これを契機にクルド人もイラクからの独立を今一度求める動きが出てきており、イラク情勢は2週間もたたないうちに事実上の国家崩壊に陥ってしまった。また、東・南シナ海における中国の高圧的な行動はおさまる気配がない。米国外交はまさに「四面楚歌」状態である。

米国内の厭戦気分が後押しする
オバマの外交政策

 しかし、そのような状況でも、オバマ大統領は、5月下旬の米陸軍士官学校(ウエスト・ポイント)で演説した際に披露したオバマ・ドクトリン、即ち、「海外の紛争には、(1)米国や米国の核心的利益が脅威に晒されているとき、(2)米国の生活様式や価値観といった国家のあり方そのものが挑戦を受けているとき、(3)同盟国が武力による侵略の危険に直面しているとき、という3つの要件のどれかに該当する状況以外は、武力介入を主体とするアプローチは慎むべきである」の原則を貫く姿勢のようだ。イラクにおけるISISの躍進に際しても、一番最初から「大規模な米地上軍の派遣は考えていない」と自ら「圧倒的力での武力介入」オプションを放棄してしまっているありさまである。


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