安保激変

2014年7月7日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 日米防衛協力の指針(ガイドライン)見直しに対する熱意も日本と米国では温度差がある。尖閣諸島をめぐり中国との緊張が高まる中で、日本がくどいほどに米国に「日米安保条約第5条適用」へのコミットメントを求め続けていることで、米国では「日本は、尖閣諸島をめぐる中国の対立に、自力で対応する真剣な努力をすることなく、米国を巻き込もうとしているだけなのではないか」という懸念がその温度差の根底にはある。

 日米防衛協力の指針の見直しについても、「安保条約第5条に基づく米国の関与の幅を拡大するのであれば、日本は安保条約の第6条で想定される事態や、平時からの防衛協力などで、コミットメントを拡大してほしい。憲法を盾にあれもできない、これもできない、というのはもうやめてほしい」という雰囲気だ。つまり、米国にとっては、ガイドラインの見直しは、日本が集団的自衛権の行使が可能になることで、自衛隊の活動の範囲を拡大する意思と覚悟を示して初めて、真剣に議論する意味があるものなのだ。つまり、「集団的自衛権行使」はあくまで今後の日米防衛協力のあり方を考えていく上での、議論の入口に過ぎないのである。

「ガラパゴス化」した日本の安全保障議論

 しかし、今回の閣議決定に至るまでの議論を見ていると、戦後70年が経とうとする今でも、日本国内の安全保障に対する考え方はほとんど進歩を見せていない。議論の最大の焦点が、いかに集団的自衛権行使の解釈範囲の拡大に「歯止め」をかけるかであったことが、日本の安全保障論議を巡る環境が未だに世界の常識とかけ離れた状態から脱却できていないことを象徴的に表している。

 そこには、日本が現在直面する安全保障環境や脅威の質的変化の結果、「前線」と「後方」、「戦闘地域」と「非戦闘地域」のような人為的な線引きができない状況が生まれていることに対する理解もなければ、軍事・準軍事力を使って日本や東南アジアに圧力をかけてくる中国や、北朝鮮のような「今そこにある危機」に今のような体制で対応できるのか、このような状況の中で日本が国家として生き延びるためにはどうすればいいのか、ということに対する冷静な議論をする余地はない。「集団的自衛権の行使を認めれば日本は望まない戦争に巻き込まれるのではないか」という情緒的な懸念が議論の焦点になり、日本が逆に自国の紛争に他国を巻き込む可能性があることについては議論にも上らない。相変わらず日本の安全保障論議を取り巻く環境は「ガラパゴス化」した状態のままなのである。

 1日の閣議決定はスタート地点でしかない。これからの防衛法制整備やガイドラインの見直しの成否は、日本が安全保障上の「ガラパゴス化」から脱却し、地に足のついた安全保障論議を政治家が国民の前でして見せることができるか否かにかかっている。自分を棚に上げて米国の内向き傾向を批判している時間は、日本にはないのである。

【連載コラム】安保激変

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