安保激変

2014年7月7日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 このような状況を見てオバマ政権の外交政策を批判するのは簡単だ。しかし、米国がこのような方針転換をした背景には、二つの大きな要因がある。一つ目は財政再建の必要性が叫ばれる中で、国防予算をイラクやアフガニスタンで大規模な米軍が活動していた時期のように潤沢に使える時代は終わったという事実である。財政収支赤字が増大する一方の国家財政に加えて、財政収支赤字の中に国債などの債務が占める割合が75%に迫ろうかという今の状況では、国際的に危機が起きるとすぐさま米軍を投入するというこれまでのアプローチは、政策論以前に、国家財政上、使い続けることができないオプションになりつつあるのだ。

 もう一つの要因は、国内の厭戦気分である。2001年から10年に亘り、多数の米軍兵士がイラクやアフガニスタンで犠牲になった。にも拘わらず、イラクでは、当時のブッシュ政権が喧伝していた大量破壊兵器は結局、発見されなかった。米国に対する直接的な脅威が何なのかはっきりしない状況で、イラクやアフガニスタンに対して見せたようなコミットメントを見せるのは当分の間ご免だ、というのが現在のアメリカでの支配的な空気だ。たとえ海外や、共和党の議員から「弱腰」「内向き」と批判されようと、オバマ政権の現在のアプローチは、少なくとも一般国民の多くが望んでいるものなのである。

「普通の国」化する米国

 実は現在のような空気は、ベトナム戦争直後にもアメリカ国内に存在していた。当時のニクソン大統領は、1969年に、報道陣とのインタビューに答える形で、いわゆる「グアム・ドクトリン」に言及し、その中で、米国は同盟国の防衛義務に対するコミットメントは維持する、としながらも、アジアの同盟国に対しては、自国を防衛するための能力を強化する自前の努力をすることを促し、またアジア地域の各国間で、アジア太平洋地域の安定化を図るために種々の努力をすることも強く奨励した。

 実はこの「グアム・ドクトリン」、オバマ政権が標榜する「アジア太平洋リバランス」によく似ている。特に、「同盟国へのコミットメントの維持」を強調しながらも、その一方で同盟国による一層の自助努力を促し、地域的枠組の構築を奨励しているところなど、「アジア太平洋にリバランスする」という一方で同盟国の能力構築をアジア太平洋地域においては優先課題に挙げる現在の政策にそっくりである。国内に強い厭戦気分が存在する点も共通している。

 要は、今の米国は政治的にも予算的にもこれまでのように世界の警察官として圧倒的な軍事力を背景にした外交を展開できる状態ではないのだ。これは、これまで「国際秩序の維持」のような漠然とした目標への使命感で動いていたアメリカが、自国に直接影響がない場合には軍事力を投入することをためらう、つまり「普通の国」化していく可能性を意味する。

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