2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年8月1日

 一方、今は団結しているが、クルド内部では、独立の程度と追求すべき戦術を巡って論争が続いてきた。バルザニ自治区大統領が率いるクルド民主党は、近年トルコとの関係を深めており、自治権を拡大しようとしているが、クルド愛国同盟はバグダッドやイランと近い。

 しかし、クルドが頼りにする米国は、クルド自治区の完全独立を、悪しき前例、地域の不安定化要因になると見て、支持していない。自国内のクルド人を刺激されたくないイラン、トルコ、シリアも独立を嫌っている。

 クルド自治区では至る所にクルドの旗があるが、イラク国旗は見当たらない。アラビア語を話すクルド人もほとんどおらず、イラクへの帰属意識は希薄だ。指導部は、独立を急がないと述べ、事態を静観しているが、ここ数日で彼らが独立の実現に近づいたのは明らかだ、と報じています。

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 クルドは、従来とも、高度の治安維持能力を有し、バグダッド初め他のイラク地域が、テロ等の対象となっていたのに対して、クルド地域はイラク内のオアシスの感があり、外国人の活動についても安全かつ自由だといいます。また、キルクークは、歴史的にクルド族の町であるにもかかわらず、サダム・フセイン以来アラブ化の対象とされて来たと主張してきましたが、今や、キルクークはクルドのコントロール下にあるようです。

 クルドは、従来、独立及び高度の自治を希求し、その能力を示して来ましたが、領域内にクルド系少数民族を擁するトルコ、イランの反対を慮って、誰もそれを支持し得ない状況でした。そのクルド地域の現状は、長年希求してきた独立に、歴史上、最も近い状態にあります。

 ただ、クルドがその目標に向かって前進出来るかどうかは、一つにかかって、米国の態度にあります。米軍のイラク撤退の前後、米国の政策担当者の間では、クルドの独立を認め、クルドと安全保障上条約を結べば、米国は中東の中心に大基地を保有出来るとの考えもあったようです。

 しかし、現在のオバマ政権では、それは到底望むべくも無いように思います。あるいは、今後、ISIS空爆の基地をクルド地区に置くような事態の進展もあるかもしれませんが、それには、その背後に、計算された米国の対クルド戦略がなければなりません。クルド地域は、米国が使おうと思いさえすれば使える、戦略的潜在価値を有していますが、米国がそれを使う可能性は、今のところ全く見えません。

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