2026年6月24日(水)

デジタル時代の経営・安全保障学

2026年6月24日

 ウォールストリートジャーナル(WSJ)によれば、Amazon CEOのジャシー氏が政権閣僚にFable 5に関するリスクを伝えたことが、今回の措置の端緒であった。WSJが確認したAmazonの内部報告書によれば、特定のクエリセットやプロンプトを入力したところ、Fable 5のガードレールを回避して、少なくとも4つのソフトウェアの脆弱性を特定できたという。

二転したトランプ政権のAI政策

 トランプ政権はAnthropicの2つの最先端モデルへのアクセス禁止を決定した。しかし、トランプ大統領は遅くとも24年大統領選期間中から、AIイノベーションの加速を訴えてきた。

 欧州AI法に代表される欧州連合(EU)の強制力のあるハードロー型アプローチとは異なるとはいえ、前バイデン政権は規格やガイドラインといったソフトローを通じて、AI分野の急速な開発・発展に「ガードレール」を与えようとしてきた。それは米国発のテック企業との合意であり、「AI権利章典のための青写真」で示した諸原則である。

 他方、トランプ候補(当時)が当選すれば、この路線を転換することが確実視されていた。トランプ陣営は「Make America First in AI」を掲げ、既存のモデル開発やAI関連サービスに関する「不必要で煩わしい規制」を見直す予定だった。実際、トランプ政権は政権発足直後の25年1月23日、「人工知能分野における米国のリーダーシップを阻む障壁を取り除く大統領令」に署名し、バイデン政権の取組みを無効化してきた。

 ところが、Mythosが脆弱性発見とエクスプロイト生成の規模とテンポを変えるというサイバーセキュリティ上の重大な懸念をもたらし、トランプ大統領は6月2日、「先進的なAIイノベーションとセキュリティの促進に関する大統領令」に署名した。新たな大統領令は、国家安全保障とAIイノベーションの優位性の双方を追求するもので、特に注目されるのは第2条(d)および第3条(b)項である。

 前者は政府機関に対し「AI業界および重要インフラの運用者との自主的な協力」を通じて、脆弱性の発見・検証と修正パッチの配布・優先順位付けのための「AIサイバーセキュリティクリアリングハウス」を設立することを課す。

 後者については、AIモデル開発企業に対し、公開前に政府に最大30日間の公開を求める。ただし、この制度は「自主的な連携」「自主的な枠組み」に基づくものであって、「政府による強制的なライセンス、事前承認、許可要件の創設を認めるものと解釈されてはならない」と強調している。

重要性を増す国家安全保障ファクター

 この大統領令は5月21日に署名される予定だったが、トランプ大統領にとって「いくつか気に入らない側面があった」ため延期された。ポリティコによれば、政権のAI・暗号資産特別顧問であったサックス氏がAIイノベーションを阻害する可能性ついて、トランプ大統領に警告した結果だという。

 トランプ大統領自身も中国とのイノベーション競争に劣後することに懸念を示した。延期・再検討の結果、CFMの審査期間は草案の90日間から30日間に短縮されたという。

 ただし、新大統領令の評価と実際の影響は定まっていない。米戦略国際問題研究所(CSIS)の専門家らの見立てでは、最先端モデル共有に関する規定は完全に任意であり、既に政府・AI企業間の協定枠組みがある以上、大統領令は「業界の行動を積極的に形成しようとする試みというよりは、既存の業界慣行をより広範な連邦機関に拡大したもの」とみる。大統領令の規制度合は「軽度」のもので、AI規制は依然として、国家安全保障主義者よりも「イノベーション加速主義者(Accelerationists)」が優位にある。


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